今回は聖徳大学で准教授を務める天川勝志先生に、「キャリアにおける意思決定と自己理解の重要性」についてインタビューをさせていただきました。「キャリア教育(とくに高大接続、社会・仕事との接続、自己肯定感の育成、就職困難学生向け支援策)」を研究されている天川先生に、キャリアの転機における考え方や効果的な意思決定のプロセスについてお伺いしていきます。
現在の研究されている分野・具体的なご活動内容について
研究では自己肯定感の親子間連鎖、経験格差によるキャリア形成への影響、就職困難学生の支援の在り方などに取り組んでいます。教育ではどの科目でも、「学びを社会や仕事でどのように活かすか」「ほかの科目でどう転用できるか」といった視点を持ってもらうことを大切にしています。
自己肯定感は親子で連鎖する傾向があります。そして、その自己肯定感の向上・育成には、学生本人だけではなく、親御さんへの支援も合わせて行うことで、より効果が上がることが解明されつつあります。
現在、聖徳大学のほか、2つの大学でキャリア形成関連科目、及び初年次系科目(文章力、論理的思考力など)、経営と法律などを担当しています。つまり、大学の入口と出口の部分に関わる科目を担当しているわけです。
経済格差がいままで以上に拡がりつつあるといわれています。
ある程度の経済格差は避けられないとしても、それが経験量や学力に影響を与えるのであれば、キャリア形成にも大きく関わってきます。そのため、経済格差が教育やキャリア形成に連鎖しないための仕組みづくりを考えています。
発達障害については、その特徴などが随分と解明されていますが、就職活動やアルバイト先では苦戦している人も多いようです。発達障害の特徴として、臨機応変な対応がとれない、遅刻が多い、パラレル管理が苦手などといったことがあります。
学生さんの中には、アルバイト先で店長さんから注意を受けたり、仲間とうまくやっていけず、相談に見える人もいます。このような学生さんたちには、単語カードを使った業務遂行を提案し、改善成果があらわれています。
詳細は省略しますが、今後、医師と協力し発達障害から生じる職場での課題に対する具体的な支援方法を検討したいと考えています。
研究者としてのこれまでのご経歴・キャリアパス

私はもともと研究者をめざしていたわけではなく、20年ほど人材系企業で、ビジネスパーソン向けの教育コンテンツ開発を行っていました。その後、1度転職し、大学生向けキャリア教育のテキスト制作に携わったことをきっかけに、現在の大学に移りました。
振り返ると、ビジネスパーソン向けの教育に関わっておりましたから、「ビジネス・仕事で求められる水準」をよく理解しており、そのことが、キャリア教育の教材開発や初年次教育の授業に活かされています。
「研究」の楽しさを教えてくださったのは、大学・大学院の指導教授です。私は当時法学部で、憲法・教育法を専攻していましたが、先生からは「歴史を学ぶ重要性」を教わりました。
かつての身分制度は、人間が人間の身分を出自などによって固定化するものです。固定化された身分などによって就ける仕事が決まる社会では、誰もがモチベーションを失います。
このような恩師の指導は「キャリア形成と社会正義の関係を考える」といった研究につながっています。
残念ながら、「難しかった決断」という経験がありません。ただ、自分ではどうやっても解決できないこともあります。
博士課程への進学を考えたこともありますが、学費など、どうにもならない事情もありました。
みなさんも今後のキャリア形成を考えていく中で、「第1志望の会社に行きたい」「起業したい」といった願望があるはずです。しかし、残念ながらすべてがかなうわけではありませんね。
そのようなとき、「限りなく○(自分なりの正解)に近い△(その時点での最適解)をめざす」ということを心に留めておいてください。仮に〇に到達できなくても、限りなく〇に近い△に着地すればいいんです。
そして、いつか△から○へリベンジすればいいんです。いつかリベンジできると信じて努力を重ねることで、必ずその機会が訪れると思います。
一つだけお伝えするのであれば、ビジネスパーソン時代に受けた研修で、講師から、「細かさ=(イコール)正確さ」ということを学んだことです。
それ以来、正確に仕事をこなす重要性を深く認識できました。正確さというのは、企業でも研究でも共通して求められ、非常に役立っています。
論文、調査などからの学びはもちろん大切です。しかし、この年になって気づくことは、自己理解の難しさです。
自己を客観視することほど難しいことはありません。他人のほうが自分のことをよくわかっているということもあります。
最近、「生きることは、自分を知るためである」などと思うことがあります。難しいからこそ、他人から教えてもらうことが貴重になってきます。
聖徳大学の建学の精神は「和」です。つまり、他者と良好な人間関係を築いていくことこそ、遠回りのようでもっとも近道の自己理解だと思います。
キャリア形成と意思決定に関する知見
その意思決定が正しかったのかどうかは、すぐに結論が出るわけではありません。どんな決定をしても不安、後悔はつきものです。
そうすると、納得が大事です。転機において、転職・起業など、新しい道へ進むメリット・デメリット、いまの仕事を続けるメリット・デメリットをマトリクス表を使って整理することです。
節目での自己分析は重要です。3年ごとなどの節目を自分で決めて、定期的な自己分析を行うことをお勧めします。
その際、意識すべきことは、見えざる自分の発見です。ジョハリの窓はどこかで学んだことがあるのではないでしょうか。
周囲は気づいているが自分は気づいていない(盲点の窓)、周囲も自分も気づいていない(未知の窓)、この部分の発掘です。そのためには自分のことを客観的に見てアドバイスをしてくれる友だち、アルバイト先の社員の方などとの交流を大切にしてください。
となりの芝生は青く見えるものです。そんなときでも、論理的に説明できるかが重要です。
転職により、1)何ができるようになるのか、2)どんなメリットがあるのか、3)中長期のキャリア形成との整合性、この3つをきちんと言語化、文章化してください。
しばしば大学生の就職活動の早期化・長期化が指摘されています。しかし、就職活動量自体は減る傾向にあります。
早期選考、インターンシップ経由での採用、新卒エージェントからのお誘いなどで決めているケースが増えていますが、自分の意思が最も大切ですね。
会社を選ぶという考え方ではなく、自分自身が何をしたいのか、どのような社会課題を解決しようと考えているのか、といった視点をもってほしいです。
わたしは、徹底した情報・条件の整理、つまり「ロジカル・シンキング」を重視するように学生さんには伝えています。
さまざまな角度から考察を加え、それをマトリクス表にして、「整理された情報をもとにした判断・選択」を大切にしてほしいと思っています。
転職者・キャリア形成中の方へのアドバイス

いまの職場を辞める理由を周囲の友だちなどに説明して、「確かに…」とおよそ8割の人を説得することができますか。人間関係などで辞めるのはキャリア形成上、大きな機会損失です。
こうした場合には配置転換など、異動希望を出せばいいわけです。つまり、自分がやりたいことを成し遂げるには、転職しか方法はないというところまで考え尽くしたかということです。
しばしば「変化の激しい時代」といわれていますね。そして、人生100年時代ともいわれています。
つまり、今後みなさんは変化の激しい時代を80年くらい過ごすことになるわけです。もしそうであれば、強みを2つ以上持つことが重要です。
アメリカ大リーグで活躍している大谷選手は、打てるし、走れるし、投げることもできます。欲張ることはないですが、2つ以上の強みを育ててほしいです。
私自身も2つの強みがあったことで、転職の際、大いに助けられました。
「好き+適性」という基準をもってほしいです。定年延長なども進み、みなさんは少なくとも40年は働くことになります。
そうすると、好きだけでは続きません。また適性があっても嫌いな仕事ではモチベーションも高まりません。
好きだし、適性もあるかという観点で考えてください。そして、専門職に就こうとしている場合には、長続きできるかどうかを自問自答してください。
不安や迷いをゼロにすることは難しいですね。そのようなときには、自問自答を続けてほしいと思っています。
「いま、自分のしている仕事の意義は何か」「今後変化が起きた場合、どんな商品・サービスを提供すればいいか」こうしたことを思考し続けることが大切です。このような習慣を積んでいれば、時代に取り残されることはありません。
不安要素も多いでしょうが、「せっかくなら楽しんでほしい」と願っています。楽しむためにも教養を身に付けてほしいです。
教養があると、選択肢が多いことにも気づきやすく、他者理解も深まります。つまり、より確かな判断ができたり、相手の真意にも気づけたりします。
聖徳大学の基本情報
| 名称 | 聖徳大学 |
|---|---|
| 所在地 | 〒271-8555 千葉県松戸市岩瀬550 |
| 大学HP | https://www.seitoku-u.ac.jp/ | 今回インタビューにご協力いただいた先生 | 聖徳大学 天川勝志先生(准教授) |


