今回は大妻女子大学で教授を務める豊田雄彦先生に、「キャリアにおける意思決定と自己理解の重要性」についてインタビューをさせていただきました。情報教育、教育工学、キャリア教育を担当している豊田先生に、キャリアの転機における考え方や効果的な意思決定のプロセスについてお伺いしていきます。
現在の研究されている分野・具体的なご活動内容について
現在の研究テーマは企業のIR情報、特に質的情報の分析です。テキストマイニングという技術を用いて有価証券報告書など企業が開示している情報から業界ごとの比較などを行っています。
大学の授業では経営、情報システム、コンピュータを総合的に学び、現場で役立つITリテラシーを身につけてもらうことを目指しています。実力判定のために、学生にはITパスポート試験の受験を推奨しています。
研究の中で興味深かったことは、実はあまり学術的な内容ではないのですが、学生に日本のヒット曲の歌詞を調べてもらい、最も出現回数の多い単語を調べたことです。意外な結果でしたが、否定助動詞の「ない」がいちばん多かったのです。確かにそう思って聞くと「ない」はよく耳にします。
私の研究が役立つと考えるのは、これから日本を投資立国として発展させるにあたり、情報の非対称性(お互いに知らないことがある)を少なくしていくことだと思っています。そのためにもIR情報の健全化は非常に重要だと考えています。
最近では、生成AIをある程度のPCでも動かせるようになってきました。今後は、そうしたローカルで生成AIを動かして、教育に役立てられるような仕組みや、インターネットを安全に使う仕組みなどを考えていきたいと思っています。
研究者としてのこれまでのご経歴・キャリアパス

大学卒業当初はマーケティングに興味があり家電量販店に勤めました。そこで当時人気が高まっていたPC(当時はマイコンと呼ばれていた)に触れ、コンピュータの世界に惹かれました。
その後、マーケッターになろうという考えよりも、プログラマー、SEとして活躍したいという気持ちが大きくなり、IT企業の人事で研修担当などを経て、ソフトウェア開発の仕事をするようになりました。
研究者になろうというよりは、教育者になりたいと考えています。いろいろとやった仕事のなかで、それが一番向いていると思ったからです。
したがって特定の人物に影響を受けたことはありませんが、強いて言えば、高校の同級生が大学の教員になっていたことが一つのきっかけでした。あいつができるなら俺もできる(失礼!)くらいの感覚でしょうか。
キャリアにおいて困難に直面したという経験は、正直あまりありません。「今、そこにある仕事」を淡々とこなすことが大切だと思っています。
意外に役立ったのがサークル活動での経験でした。大学設置基準で、メディアによる授業が認められた際に、その作り方を研究したのですが、大学のサークルが放送研究会だったことが幸いしました。
授業を作る手順と番組制作の手順は酷似しているからです。
学生時代から現在までを振り返って、好奇心を大事にすることが大事だと感じています。大学教員の仕事は、自分の専門だけにとどまらず、付随するさまざまな業務もこなせないといけません。
そうしたときに過去に興味をもって読んだ本の内容が思わぬ形で役立つこともあるのです。
キャリア形成と意思決定に関する知見
アニメ「中二病でも恋がしたい」の主題歌Sparkling Daydream(ZAQ作詞)に「理想も妄想も現実も、すべて君を軸に廻る、新しい世界へ」という歌詞があります。「妄想」だと思っても、それを実行する手順を考えられれば「理想」になります。
その手順をきちんと実行すれば「現実」になるのだと思っています。
自己分析で重要なことは自分を等身大で見る習慣をつけることです。ちょっと背伸びするくらいのことはあってもいいかもしれません。
自分をきちんと把握して行動すれば、大きく間違うことはないと思っています。
転職はこれからの時代当たり前になっていくでしょう。その際に重要なことは、今の職場で培っているスキルや能力は、世間一般で通用するものかどうかを見極めることです。
もしそういうスキル・能力が身につかないのであれば、転職も一つの手かもしれません。
現代社会はまさに破壊的イノベーションが突然起こる状況です。このような中で、「一生安定したキャリア形成をどのように築くのか」というのは大きな課題です。
それでも保守的になるのではなく、知的好奇心をもっていろいろなものを見ていれば、その中で自分を活かす道が見つかるのではないでしょうか。特定の分野に絞らなければ、才能の数よりチャンスの数のほうが多いと思います。
転職者・キャリア形成中の方へのアドバイス
転職を考えている方に伝えたいのは、いちばん大切なのはタイミングだということです。世の中の景気や業界の状況などは最たるものです。
昔、人事をしていたときに「こんな優秀な人がなぜわが社に?」と思い、よく考えると円高不況時に入社された方でした。景気がよければもっと他の選択肢が… と考えたりもしました。(幸いにも、その方は好況時にも辞めることなく長く活躍されていました)
長期的なキャリア形成の基本は、現状を正しくキャッチアップできる能力です。才能が大切なように思われますが、意外にも重要なのは基礎学力です。
何かを理解しがたいのは前提知識が欠けているからです。そしてその前提知識は高校までに習っていることが多いのです。
自分が何に向いているかは考えているだけではわかりません。実際に経験することも重要です。
元・リクルートワークス研究所所長の大久保幸夫氏が提唱した「筏下りと山登り」という考え方はキャリア形成を考える上で重要だと思います。
「筏下りと山登り」とは、30代までは筏下りのごとく様々な業務にチャレンジし、30代以降はその経験を活かして自分の登るべき山(専門)を見つけて専門性を磨いていくという考え方です。
キャリアを決定する際に迷うのは、選択の余地があることを意味します。選択の余地があること自体、幸せなことと考えましょう。
やれそうか、無理そうか、そうした直感を経験を通じて鍛えることが大切です。
若い皆さんに、明るいと思える未来をつくることは年長者の役割かと思いますが、教育現場では「適応しろ」という主張をしがちです。例えば、AIで仕事がなくなる、だから人間にしかできない仕事を見つけろといったようなことです。
しかし、少なくとも先進国と言われている国では、自分たちで社会のありようを考えることができます。仮に、AIやロボットで特定の仕事がなくなったとしても、そこで生まれる利益や余暇を適切に分配すれば、また新しい仕事や価値が生まれます。
社会を「適応させる」という視点でも考えてみてください。
大妻女子大学の基本情報
| 名称 | 大妻女子大学 |
|---|---|
| 所在地 | 〒102-8357 東京都千代田区三番町12番地 |
| 大学HP | https://www.otsuma.ac.jp/ | 今回インタビューにご協力いただいた先生 | 大妻女子大学 豊田雄彦先生(教授) |


