今回は法政大学で教授を務める小川憲彦先生に、「キャリアにおける意思決定と自己理解の重要性」についてインタビューをさせていただきました。経営学部においてキャリア・マネジメント論を担当している小川先生に、キャリアの転機における考え方や効果的な意思決定のプロセスについてお伺いしていきます。
現在の研究されている分野・具体的なご活動内容について
学部や大学院でキャリア・マネジメント論を担当しています。最近ではCSM(Career Self-Management)などとも言われますが、要するに、個人がキャリアに関する問題解決や意思決定に関わる計画を立てて実行する過程です。
自律的なキャリアの自己管理が叫ばれて久しいですが、実際には様々な制約条件があり、その中でいかにその主体性が発揮されうるのかに関心があります。
組織心理学のゼミを謳っている関係でキャリア以外のテーマも広く扱います。この領域は個人や集団の行動を扱う関係で、心理学や社会心理学的なアプローチが多くなりますが、例えば、ランキングの動機づけ効果の実験であるとか、若年世代の認知するパワハラ構造、あるいはフレネミー行動と心理的安全性の関係など様々なテーマで共同研究をしてもらっています。
研究のたびに興味深い結果があると感じていますが、組織社会化という適応の過程から自身の個性化という過程が生じるという博論のテーマについて、同じようなことをEd.Schein(役割適応とキャリア・アンカー)やD.Hall(適応力とアイデンティティ)らキャリア論の偉人が捉えようとしてきたことに気が付き、道が通じたと言う感想を持ちました。
研究者としてのこれまでのご経歴・キャリアパス

母校の同志社大学のOBが立ち上げた若い会社(CCC)を経験できたこと、その後大学院を受験し神戸大学の金井壽宏先生の門を叩き、経営学者としての後ろ姿を見られたこと、そこに集う真摯に研究者を目指す院生の姿を間近で体感できたこと等かと思います。修論や博論を書き上げると言う経験も、言うまでもなく重要な転機であったように思います。
とりあえず行動してみることや、行動しながら考えると言う態度は、最初に就職したCCC由来に思えます。当時は必ずしも院生時代に学術雑誌に投稿する方は多くなかった印象でしたが、とりあえず投稿してみた結果、読者としてかかわっていた雑誌に名前が載ったのが新鮮な経験でした。
最近は査読や編集側でも関わりますが、院生指導なども含め、他者の研究成果への洞察や改善を考える行為が、自身の視野を広げたり、考察を深めているように感じます。
若い頃に形成された態度や努力は重要だと思える一方で、それを続ける大切さも感じます。恩師の金井先生にせよ、故・小池和男先生をはじめ法政の優れた同僚たちにせよ、努力を続けている印象です。
正確には、努力と言うか、それが好きで楽しんでいる印象があります。
キャリア形成と意思決定に関する知見
いかなる意思決定にも通じるのは、その目的です。それで目的が果たされるのか、他の選択肢よりも目的に近づくのか、という判断が大前提です。
その上で転機の独自性を考えます。転機の多くは、例えば新たな獲得と同時に、今あるものを手放すこと(例えば管理職ポストを得るが平社員でなくなること等)を伴います。
その結果の評価には主観的な価値判断を含むので(気楽さを失うことや部下指導の苦労の価値など)、万人向けの最適解はありません。ただ、その選択の満足度を高める要素はあります。それは両者を踏まえて自分で決めたという自覚です。
自己決定は、納得感を高めると同時に、転機の後半、つまり新たな世界を得る過程において、これからを何とか良いものにしようと言う前向きな行動を喚起します。
自己分析も同様で、目的ありきです。何のための自己分析なのかによって、重視すべき点は変わります。
例えば、新卒の就活で本当の自分や親子関係のトラウマを根掘り葉掘り探る意味は薄いでしょう。希望する業界や職業・職種に適合的かどうかを判断することと、そのアピールを目指すならば、むしろ、どういう人がいるのか、どういう人が評価されるのかを知ることと、自分がそれに該当しそうなのか、そうだと言える経験や成果を他人に伝えられるレベルで持っているのかの把握が重要になります。
これも同様で、転職は手段ですから、自分の目的に適うかどうかが何よりも重要です。それが第一であり全てと言ってよいですが、あえて助言めいた事にも触れます。仕事を通じて得られるものには、収入やポジションなど明示的に手に入るものと、面白さややりがいと言った目に見えにくいものがあります。
当たり前に持っているものは意識しにくく、失って初めて、その重要性に気が付くと言ったことがあります。目に見えるものは認識しやすいので、むしろ後者、つまり実は恵まれていることや、当たり前だと思って感謝を忘れていることはないか、事前に考えてよいかもしれません。
日々の振り返りで感謝できることを毎日3つだけ書いておくと意識しやすくなります。
適応と自分のキャリア形成のバランスです。変化への対応が必要なのはご存じの通りで、技術面をはじめ継続学習が必要です。
一方で、変化に日々対応するだけでは、自分が目指すものへ辿り着く保証はありません。中長期的な目的を持つつつ、今現在対応しなければいけないことに向かう、双方が必要でしょう。
ただ、計画にはグレシャムの法則が働き、日々の雑事で重要なキャリア上の目的はないがしろにされがちです。したがって意識的に時間を確保し、目的や日々の行動を調整する必要があります。
緊急度と重要度のマトリクスで、重要なことを後回しにしすぎていないか見直してください。
転職者・キャリア形成中の方へのアドバイス
エンジニアとして相応に実績を積み、自身の成果が内外で伝わるようになると、自ら求めなくても、社内や取引先などから逆に声がかかるはずです。それがないのは、実力不足か、可視性(Visibility)が弱い、つまりネットワーク不足やアピール不足の可能性があります。
転職も選択肢ですが、引き抜かれる自分を目指し、今の仕事の中で何が足りないのかを考えてスキルや人間関係などのキャリア資産を形成するとよいでしょう。有為の人材はいつも不足しています。
「誰か良い人はいないかな」が口癖の採用担当者は少なくない印象です。
点と点をつなぐ(Connecting the dots)という故・スティーブ・ジョブスの名言はご存じでしょう。後で何が重要になるのか、どこが転機なのかは事前にわからないわけです。
しかしその時々の経験(点)のどれを重視し、どれとどれをつないでパターンや意味を見出すのかは、人それぞれです。キャリアの構築理論はまさにこの考え方をします。逆に、合う(マッチング)という伝統的な職業選択理論の考え方は、静的で客観的なものです。
今、客観的に合うかどうかだけでなく、合うように自分を成長させることも、自分に合うように仕事のやり方や優先度などを変えることもできます。その方が転職より容易なこともあります。
同時に、仕事を好きになる自律性もあることを忘れていないか再考してみてください。
法政大学の基本情報
| 名称 | 法政大学 |
|---|---|
| 所在地 | 〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1 |
| 大学HP | https://www.hosei.ac.jp/ | 今回インタビューにご協力いただいた先生 | 法政大学 小川憲彦先生(教授) |


