今回は、産業能率大学で総合研究所教授を務める松尾泰先生に、「キャリアにおける意思決定と自己理解の重要性」についてインタビューをさせていただきました。戦略経営会計論や会計思考力を担当している松尾先生に、キャリアの転機における考え方や効果的な意思決定のプロセスについてお伺いします。
研究背景・専門領域に関する質問
「会計を経営のさまざまな場面で活かす方法」を主な研究テーマとしています。具体的には経営の方向性を決める意思決定のために、会計的な考え方をどのように活かせるかを日々考え研究しています。
大学院の授業では「戦略経営会計論」、大学の通信教育課程では「会計思考力」などの科目を担当しています。そのほかにも、会計や戦略分野の研修やコンサルティングをさまざまな業界の企業に対して行っています。
「会計思考力」とは、会計用語を暗記したり、財務諸表を作成したり、読み解いたりするだけの力ではありません。売上、利益、資産、負債、キャッシュの動きを手掛かりに、会社の現状を把握し、ビジネスモデルや経営戦略との関係を読み解き、今後の打ち手を考える力です。
短期的な会計の視点に加え、中長期的なファイナンスの視点を持ち、経営陣を含めた全社員が企業価値を高める方法を考える力になります。
キャリアの意思決定と自己理解

仕事を選ぶ際には、「得意かどうか」だけでなく、「その仕事を通じて誰に、どのような価値を提供したいのか」を考えることが重要です。向いている仕事は、能力だけで決まるものではありません。興味を持って学び続けられるか、周囲との協働を楽しめるか、成果を振り返って改善できるか、といった行動特性も大切です。
成長できる環境とは、単に厳しい職場ではなく、挑戦の機会があり、失敗から学べ、適切なフィードバックを受けられる環境です。自分の価値観と組織の方向性が重なるかも確認すべきだと思います。
新卒で銀行に入行しさまざまな経営者と関わる機会がありました。そこで感じたことは、経営理論を活用していない経営者が多かったことです。
経営者が保有する経験値に経営理論が融合されれば企業の業績が良くなるという仮説を立て、実務と理論を結びつけ経営を支援できる場がないかということを日々思うようになりました。そこで出会ったのが本学だったのです。
本学は、理論を実践の場で活かせる人材の育成を目的とする日本でも珍しい大学であり、日々成長できている実感があります。
キャリア形成とAIによる変化
新しい仕事に挑戦するとき、失敗を完全になくそうとすると、かえって動けなくなります。大切なのは、失敗を「自分の価値の否定」ではなく、「仮説を検証した結果」と捉えることです。
最初から大きな賭けをするのではなく、目的を明確にしたうえで、小さく試し、結果を振り返り、次の行動を修正する。このサイクルを回すことで、不確実性を管理できます。失敗した場合の損失をあらかじめ限定し、撤退基準を決めておくと、冷静に挑戦しやすくなります。
生成AIの普及によって、知識を持っているだけの人材の価値は相対的に下がるでしょう。一方で、何を問い、どの情報を信頼し、AIのアウトプットを仕事の成果にどう結びつけるかを判断できる人材の価値は高まります。
さらに、顧客や仲間の本質的な課題を理解する力、異なる意見をつなぐ対話力、倫理的に適切な判断をする力も重要です。AIを使うこと自体ではなく、AIを活用してどのような価値を創造するかが問われる時代になると思います。
先生の専門的視点からのメッセージ
これからキャリアを築く皆さんに伝えたいのは、目の前の仕事に誠実に取り組みながら、学びを自分の可能性へ変えてほしいということです。
私自身の学びも、国際会計、知識科学、経営学という3つの修士課程、そして博士課程へと広がりました。それぞれは別々の学位に見えますが、会計を基に、知識が生まれ活用される仕組みを学び、さらに経営全体を捉えるという形で、実務上の問いが次の学びにつながっていきました。博士課程では、これまで仕事で実践してきたことを研究テーマとして、自身の理論を構築することができました。
大切なのは、学位の数を目標にすることではありません。仕事の中で生まれた疑問を放置せず、学び直し、試し、考え抜くことです。キャリアは一直線ではなく、経験と学習の積み重ねによって後から意味づけられます。焦らず、しかし現状に安住せず、自分の専門性を少しずつ深めてください。
産業能率大学の基本情報
| 名称 | 産業能率大学 |
|---|---|
| 所在地 | 〒158-8630 東京都世田谷区等々力6-39-15 |
| 大学HP | https://www.sanno.ac.jp/ |
| 今回インタビューにご協力いただいた先生 | 松尾泰先生(総合研究所教授) |


