今回は上越教育大学で教授を務める山田智之先生に、「キャリアにおける意思決定と自己理解の重要性」についてインタビューをさせていただきました。道徳・進路・生徒指導に携わる山田先生に、キャリアの転機における考え方や効果的な意思決定のプロセスについてお伺いしていきます。
現在研究されている分野・具体的なご活動内容について

専門は、キャリア教育、キャリアデザインといった分野です。直近ですと、「キャリア教育の捉え方が、各教科の取り組みや教育課程の編成に与える影響」についての研究も行っていました。


大学では、Kurt Lewinの『理論なき実践は盲目であり、実践なき理論は空虚である』ということばを座右の銘として、道徳教育や生徒指導といった分野を包括し、これからのキャリア教育について教えています。


最近の研究活動で特に印象に残っているものは、オタクに関わる研究です。
オタクの研究を通して、自己実現を図るキャリア教育の在り方を考えさせられました。
「人は何のために働くのか」という問いに、小・中学生であれば「お金のため」という答えが返ってくることもあります。それに対して、「自己実現・社会貢献」といった答えを求めていないだろうか…?と。「何のために働くのか」という問いには決まった答えはありません。このような疑問が頭をよぎったことが印象に残っています。


最近特に注目しているのは先ほども述べたオタクの研究です。
この研究では、オタクを自認する者は、職業を通じて自己実現を図ったり、社会貢献をしたりしようとは考えていないことが明らかになりました。
何故なら、趣味の世界で自己実現を図ったり、社会貢献をしたりしているからと考えられます。オタクの働く理由は、趣味のために資金を獲得する必要があるからだそうです。


キャリア教育の研究とは、「人は何のために働くのか」という問いを深く考えさせるものです。
とくに、自己実現や社会貢献の多様な形を理解し、キャリア教育の新たな可能性を探ることに注力しています。
このような研究は、個々人が持つ価値観や働く意義を尊重する社会づくりに貢献していると考えています。

研究者としてのこれまでのご経歴・キャリアパス

幼少期は鉄道にかかる陸橋の上で過ごすことが日課となっていました。「この列車はどこに行くのだろう」とまだ見ぬ世界に想いを寄せて、何時間でも鉄橋で過ごすような子でした。小学生では果てしない宇宙への興味をもち、中学校から絵を描くことに熱中し、次第に「美とは人間にとって何なのか」ということを考えるようになり、美術教員となりました。
その後、中学校の進路指導やキャリア教育を知り指導にあたっていたことから、キャリア教育専門の大学教員として後進を育成することを目指すようになりました。
一見、とりとめのないキャリアパスのようですが、根底にはいつも「好奇心」があったように思います。


中学校の教員を務める中で、進路指導やキャリア教育を知り「人は何のために生まれて、何をして生きるのか」を自問自答しながら中学生の指導にあたっていました。この経験を経たことが、キャリア教育を専門とする大学教員になり、後進の育成にあたるきっかけとなっています。


私が研究者としてのキャリアを築くうえで役立った資質には、幼少期からの好奇心が挙げられます。
好奇心から、さまざまな物事に疑問をもって思考してきたことが、キャリアにつながっていると思います。


キャリアパスの中で最も大きな決断をしたのは、中学校教員から大学教員への転機でした。
中学校教員を務めていたときに大学教員を目指すことを決め、そこから社会人大学院で修士・博士の学位を取得し、大学教員になるたなるための論文を執筆。大学教員になるまでに10年の月日を要しました。
難しい決断を乗り越えて目標を達成するには、「ぶれない」ということがあげられると思います。


ぶれないこととは、平たく言えば「目指した目標からぶれないこと」、「気持ちがぶれないこと」などさまざまです。
私が10年かけて大学教員となった、その根底に流れるものは、「人は何のために生まれて、何をして生きるのか」といった人生や教育への好奇心と、そのような教育を行う教員を育てたいという「ぶれない心」であったように思います。

キャリア形成と意思決定に関する知見

人生の転機における効率的な意思決定には、「決める力」が重要であり、自己理解から始まる6つのステップを踏むことが大切です。
具体的には、自己分析を通じて自分の強みや価値観、スキルを把握し、仕事理解や啓発的経験を経て総合的に判断・実行するプロセスが必要です。
このような意思決定プロセスを経ることで、自分らしいキャリア形成が可能になるでしょう。


良い決断をするために大切なことは、まず自己理解を図ることが重要です。具体的には、自分の強みや弱み、価値観、希望するライフスタイル、スキル、達成感やモチベーションを感じるものを知り、「自分は何者なのか」を知ることです。
このような自己理解をもとに意思決定を行うことが大切です。


さきほどの内容と重複してしまいますが、キャリアの節目で自己分析を行う際には、「自分は何者なのか」を知ることが重要です。


キャリア形成において最も大切なことは、自己理解を深めて「決める力」です。
キャリア形成をする際には先ほどお話しした6つのステップを踏みます。その根底に「意思決定」をする力、すなわち「決める力」が必要となります。


現代社会では、現時点で正しいとされている知識や実践に疑問を投げかけ、それを改善・発展させようとする姿勢と実行力が求められています。
そこで大切なものは内発性です。「やらされている」ではなく「やりたいからやる」といった内から湧き出る力を大切にしてください。

転職者・キャリア形成中の方へのアドバイス

自己理解を深めて、「やりたいからやる」という内から湧き出るものを大切にしてください。
実行力をもって、超高齢化社会の中で生じる、あらゆる課題の解決に向けてチャレンジすることが重要なのです。


少子化・高齢化と聞くと我々の脳裏には、年金、介護、孤独死などといった様々な課題が浮かび、不安を感じるのではないでしょうか。
私が小中学生であった昭和40〜50年ごろ、先生たちは非常に若かったことを思い出します。その背景には、多くの若者が戦死していたことがあるわけです。
一方、医学の進歩によって、日本は世界有数の長寿国となりました。戦火のない平和な時代が80年にわたり続き、医学が進歩している国であるからこそ、超高齢化社会が形づくられたと考えられます。医学の進歩と平和は、誰もが望んでいたことではないでしょうか。
もちろん少子高齢化社会に問題がないわけではありません。
しかしながら、このような社会がサスティナブルであるために、超高齢化社会の中で生じるあらゆる課題の解決に向けてチャレンジすることが重要だと考えます。


多角的な視野を持ちつつ、超高齢化社会を含め、社会の中で生じるあらゆる課題の解決に向けてチャレンジすることが重要になってきます。
自己と他人を肯定的に捉えつつ、批判的に物事を見つめる力を大切にしてください。

上越教育大学の基本情報
名称 | 上越教育大学 |
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所在地 | 〒943-8512 新潟県上越市山屋敷町1番地 |
大学HP | https://www.juen.ac.jp/ | 今回インタビューにご協力いただいた先生 | 上越教育大学 山田智之先生(教授) |