今回はフリースクールを運営しながら宇都宮大学の大学院にてご研究をされている足名笙花さんに、「キャリアにおける意思決定と自己理解の重要性」についてインタビューをさせていただきました。通信制高校生やフリースクール生のサポート、不登校者の居場所についてご研究されている足名さんに、キャリアの転機における考え方や効果的な意思決定のプロセスについてお伺いしていきます。
現在の研究されている分野・具体的なご活動内容について
私は現在、教育学や社会デザイン学系の分野を研究しています。具体的には不登校者の「その後」である社会的自立・キャリアを見据えた支援の在り方を、フリースクールという民間の教育施設から考察しながら、公的な立ち位置や資格を必要としないスタッフの専門性についても研究しています。
私は、7年ほど前に高校時代の恩師と先輩・後輩を含む4名で「滝野川高等学院」というフリースクールと通信制高校のサポート校を立ち上げました。そのため、現在もスタッフとして活動しながら不登校者の支援を行っています。小学生から大学生の不登校者と関わる実践者、また研究者という立場を行き来しながら、日々感じている課題や気づきを、エビデンスのある形で示すことができるかどうかを調査・研究しています。
私は、不登校は事象であり問題とは捉えていません。現代は人生100年時代であり、企業においては年功序列から成果主義へと変化しています。
社会の在り方が目覚ましく変化する現代において、転職が当たり前になりつつあるように、学び方・学ぶ場が変化していくことも当然な流れだと考えています。しかし、現状の不登校者を取り巻く社会状況はまだまだ環境整備がなされておらず、苦しんでいる当事者・家族がいます。
不登校者のその後・未来を見据えた支援に関する研究をおこなうことで、不登校者のみならず、今を生きる全ての人々が生きやすい世の中になると信じています。
研究者としてのこれまでのご経歴・キャリアパス

私は、中学時代に不登校を経験し、通信制高校に進学した経緯があります。その進学した高校で現在一緒に働いている高校時代の恩師である豊田毅先生に出会いました。
豊田先生は、大学院の博士前期課程修了後にその高校で働いておられました。豊田先生から、「大学院での学び」「学問とは何か」といった、哲学的な深い学びに高校生でありながら触れさせていただいたことで、周りと比較することなく現在に至るまでのプロセスを意識して学びを継続できたと考えています。
博士前期課程に在籍していた際、仕事と研究の両立でとても悩みました。研究をおこなう時間があるのであれば、その時間を使って子どもたちのためにできることがあるのではないだろうか、と自問自答していました。
また繊細な子どもたちと真剣に関わる日々と研究との両立は難しく、仕事が終わってから泣きながら研究に向き合ったこともあります。その頃に「レジリエンス」という言葉と出会いました。
レジリエンスとは、「竹のようにしなやかで折れない力」という意味で、自分の完璧主義な性格を意識的に変えていく決意をするきっかけとなりました。その後は、七転び八起きという形ではありますが、今はゆるやかな気持ちで仕事と研究の両立をおこなうことができています。
私自身中学時代に不登校になったことは、大きな挫折であり、目の前だけでなく未来すべてが真っ暗になるような経験でした。しかし、通信制高校での友人や先輩・後輩、そして信頼のできる先生との出会いによって、通信制高校の教員を目指すようになり、大学では歴史学を専攻しながら、中学社会・高校地歴・公民の教員免許を取得しました。
今では、フリースクールやサポート校のスタッフという立場から高校生のスクーリングの授業も担当しています。当時の夢とは違う形ではありながらも、不登校者支援に長年携わることができていることは、自分の夢が実現できていると言えるのかもしれません。
キャリア形成と意思決定に関する知見
目まぐるしく過去の「当たり前」が変わる現代社会において、「確実」であることはほとんどありません。また現代は選択肢が増える一方で、情報が溢れ、雇用の不安定化やキャリア選択の自己責任化などによって、正解が見えにくい不確実な世の中であると考えています。
そのため、場に応じた柔軟な適応力と、自身が選んだ選択や与えられた仕事等を自分の中で「意味づける力」を育むことが今後の個人のキャリア形成に活かされていくように感じています。
私は現在、アメリカの心理学者であるエドワード・デシ(Edward L. Deci)とリチャード・ライアン(Richard M. Ryan)が提唱した自己決定理論の下位理論である「基本的心理欲求理論」を活用した研究をおこなっています。基本的心理欲求理論は、「自律性」「有能感」「関係性」という3つの欲求が充足されていること、阻害されていないことが自己決定力を高める基盤になる、という考えです。転職する際には、3つの基本的心理欲求が阻害されず充足しやすい環境であるかどうかという指標を自分の中で持っておくことも、キャリア選択をする際の良い視点になるでしょう。
転職者・キャリア形成中の方へのアドバイス
近年のキャリア発達理論に、クランボルツ(Krumboltz, J. D)の計画的偶発性理論というものがあります。これはキャリア形成において、予想していなかった偶然の結果で成長の機会や成功のチャンスが巡ってくる、という考えです。
これまではキャリアプランを立ててそれに向かって歩んでいくという方法が主流でしたが、予測のつかない現代社会においては、「突然現れた偶然の機会に対していかにポジティブな姿勢で向き合えるか」こうした心構えがあることが、長期的なキャリア構築において重要な考え方の一つであると考えています。
私自身、現在働いている仕事は、自分に向いていると感じた職業ではありません。研究者としての活動も自分に向いているのか、というとそうでもありません。
しかし、そこで一緒に働いている上司や仲間であったり、子どもたちであったりは大好きです。研究も向いてはいませんが好きです。
つまり、仕事や職場選びというのは、単純に「向いている」という感覚だけでなく、その場・その環境を好きであるか、その仕事に対してやりがい・生きがいがもてるか、その仕事は、仕事以外の時間も充実したものにできるか(してくれるか)、という視点も大切です。これからの社会においては、「向いている」だけでなく、その環境や価値観が「合っている」という感覚を重視することで、より豊かな職業選択が行えるのかもしれません。
私自身もこれからの社会を生きていく若者の一人です。不確実な世の中ではありますが、不確実だからこそ、自分の信念や価値観は常に一貫したものをもっていたいと考えています。
「私」は何を重視し、何を大切にして生きていたいのか、時には立ち止まって、自分自身と向き合って考えてみてください。キャリアにおける正解は一人ひとりの中にあると思います。一緒に頑張っていきましょう。
宇都宮大学の基本情報
| 名称 | 宇都宮大学 |
|---|---|
| 所在地 | 〒321−8585 栃木県宇都宮市陽東7−1−2 |
| 大学HP | https://www.utsunomiya-u.ac.jp/ | 今回インタビューにご協力いただいた先生 | 宇都宮大学 足名笙花さん(博士後期課程) |


