今回は東京情報大学で教授を務める原田恵理子先生に、「キャリアにおける意思決定と自己理解の重要性」についてインタビューをさせていただきました。発達臨床心理学や学校臨床心理学を研究されている原田先生に、キャリアの転機における考え方や効果的な意思決定のプロセスについてお伺いしていきます。
現在研究されている分野・具体的なご活動内容について
発達臨床心理学、学校臨床心理学、学校心理学を専門として、非認知能力とキャリア発達や不適応の予防につなげる「児童生徒の成長を支える心理教育と学校現場の支援」の研究に取り組んでいます。
大学では、教育心理学や学校心理学、教育相談、道徳教育、キャリア教育を実践的な視点から教えています。
これまで、ソーシャルスキル・トレーニング(SST)のプログラムの開発と効果の検証を高校を中心に行ってきました。SSTを実践する学校や先生が増え、道徳教材や教員研修動画などを教育委員会と協働で作成したことは長年取り組んできた中で嬉しい成果の一つです。
2022年に改訂された「生徒指導提要」の中にも社会性と情動の学習(SEL)とSSTが明記され、現在、研究と実践が急速に広がっています。高校段階は「多様な背景の生徒支援」と「自立・キャリア形成」が重要になるため、高校全体を対象にしたユニバーサルなSELの効果検証の研究が増え、向社会的行動の増加・問題行動の減少・学業向上・メンタルヘルス改善などの効果が報告され、メタ分析も進んでいます。
不登校やいじめ、課題や困難を抱える生徒への支援や、高校生へのキャリア教育だけではなく、「教科を横断してSELを実装化すること」「生徒のコンピテンシーを向上させること」「学校で実践する先生方のスキル向上」に向けた研修も注目されています。
研究者としてのこれまでのご経歴・キャリアパス

民間企業を経て教員、スクールカウンセラー(SC)・心理相談員等の教育臨床に携わる中、不登校や中退学等の生徒とのかかわりを通して、面接だけではなく集団を活かした心理教育による支援や予防の必要性を実感しました。
社会性と感情を育てる心理教育を学校全体で実践しつつ、教師と子どもが共に成長する場をスクールカウンセラーとしてどのように支援できるのかと考えていたとき、修士課程の指導教員から「教育現場で得られる具体的知見の体系化と教育改善や支援方法の科学的検証への応用」のために博士課程への進学を薦められ、研究することを決意しました。
日本の学校文化に適した心理教育プログラムを開発し教育効果を最大化することを目指す検証には、制度的・人的・物的な制限、意義の理解や教員支援など介入の難しさがありました。そのような中、これまでの勤務先や研究会で知り合った先生方が協働研究の環境づくりに、尽力してくださいました。また博士課程指導教員の伴走、ゼミの仲間や同領域の研究者と研鑽しあうことで研究へ昇華できました。
先述のような経験は私のキャリアを築くうえで選択肢を広げ、困難な状況であっても周囲の人の力を借りながら、ストレスと上手に付き合い乗り越えていく力(レジリエンス)がとても役に立ったと思っています。
これまでを振り返ると、困難な状況にあっても、常に相談できる人・応援してくれる人・新しい世界を見せてくれる人といったつながりの中で、感謝の気持ちとともに今につながってきたことに気づかされます。
キャリア形成と意思決定に関する知見
私が意思決定のプロセスで大事だと考えているのは、「ここでの意味を理解すること(自己理解と意味づけ)」、「人との関係性に感謝すること(社会的支援と視野の拡張)」、「情報を収集し計画を立てて責任ある自己決定をすること(行動計画と自律性)」です。これらの考えは、キャリア構成理論、計画された偶発性理論、自己決定理論、SEL等の複数の理論と重なりあっています。
自己分析は自己理解に通ずる、転機の意思決定において最初の基盤となります。「今の仕事や環境、経験が自分に何を教えているのか」「どんな価値観が満たされ、また満たされていないのか」「自分という人生の物語の中で、この転機はどんな位置づけになるのか」といった自分の“軸”と“価値観”、“未来の方向性”を明確にすることが重要な基準となり、重視したいポイントになると考えています。
現代は、選択肢の増加と情報過多、価値観の多様化で“正解のキャリア”が存在せず、キャリアの非連続化やリスキリングが必須とされています。また、過去の延長上に未来が描きにくく、オンライン化で相談相手が減る等、キャリアの悩みを一人で抱え込みやすくなりがちです。
キャリアはつくられるものからつくり続けるものとして、「過去の自分 → 今の自分 → 未来の自分」という時間の流れの中で、人との関係性をキャリアの資源として活用し、一人で抱え込まず他者の視点を取り入れることで、より多くの選択肢に気づき、計画と柔軟性を両立しながら成長できます。
転職者・キャリア形成中の方へのアドバイス
転職は恐れるものではなく「自分の人生を再構築する機会に変える」ことで自分の価値観・経験・人とのつながりを使って“納得できる物語”をつくるプロセスになるともいえます。だからこそ、他人の期待や社会的基準に流されないように自分の価値観、興味や強み、大切にしたい生き方、感情やニーズと心身の健康を大事にしながら、自分の持つ力と可能性を信じてもらえたらと思います。
転機の不安や迷いは変化に備えるための自然な反応であり、自分の人生を大切にしようとしているエネルギーでもあります。「不安があるからこそ未来を真剣に考えられる、迷いがあるからこそ価値観が明確になる、揺れがあるからこそ成長が起こる」だからこそ、①不安や迷いが何かを紙に書いて言語化し、②迷いの裏にある価値観を整理する。③信頼できる人に話すことで思考を整理して視野を広げ、④できることから少しずつ行動し、⑤どうやってどう感じたかを振り返って意味づけると、次の一歩が見えてきます。
歩むキャリアはこれまでの世代と違い、分岐点が無数にあり、解が1つではない世界に生きるため、「正しいキャリア」よりも「納得できるキャリア」が大切になってくると思います。迷うこと、立ち止まること、遠回りすることもあるかもしれませんが、あなたが選んだ道があなたの道になっていきます。
どんな選択をしても、そこからまた未来を作り直すことはできます。キャリアはいくらでも豊かに、自由に、創造的に育てていくことができます。
東京情報大学の基本情報
| 名称 | 東京情報大学 |
|---|---|
| 所在地 | 〒265-8501 千葉県千葉市若葉区御成台4-1 |
| 大学HP | https://www.tuis.ac.jp/ | 今回インタビューにご協力いただいた先生 | 東京情報大学 原田恵理子先生(教授) |


