この記事のポイント
- 自動運転研究では「人間と機械の協調」をどう設計するかが最大の課題です
- 完全自動運転の実現には技術的・法的な壁があり、当面は常時監視型の運転支援が主流になります
- エンジニアには、プログラミング力だけでなく心理学的な視点も求められます
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※この記事は過去に掲載されたインタビューを再掲しています。
伊藤先生の研究室では、どんな研究をしていますか?
プログラミングそのものとは直接関係ないかもしれませんが、どちらかというと心理学に近い領域です。大きくいうと、人間と機械の協調・共生をテーマに、人と機械のシステムが何かのタスクを安全に行えるよう、システムのロジック設計やインターフェイスデザインに関する研究をしています。主な対象は自動車の運転支援です。
人間が何らかの形で機械に接触する場面は必ず生じます。そういった場面で、どのようなシステムのロジックを組んでおけば問題が起きにくいかを考えています。自動車以外にも、鉄道・航空機・有人宇宙船などの分野にも取り組んでいきたいと考えています。
現在はメーカーのニーズもあり、自動運転・運転支援自動車に関する研究がほとんどです。もともと私たちが取り組んできたのは、システムの信頼性評価や安全性評価といった領域です。いかに安全に運用できるかという点に力を入れていきたいと思っています。
先生がライフワークとされる自動運転の課題について教えてください。
実際に世の中に出回るのは相当先のことだと思っています。場合によっては難しいのではないか、と個人的には感じています。知的なセンサーを搭載しているかどうかにもよりますが、自動運転と銘打っていても、場面によってはシステムが対応できないという限界があります。道を見失ってしまうといった事態が現実に起きた場合、その対応は人間が行わなければなりません。
また、自動運転中、人間の注意力はかなり低下した状態になることを前提に設計する必要があります。注意力が低下した人間に対して制御を戻すには、どのタイミングで、どのような情報の伝え方をすればよいか——そこが今、重要な課題になっています。
DX(デジタルトランスフォーメーション:業務や事業をデジタル技術で変革すること)や生成AI(文章・画像・コードなどを自動生成するAI技術)の進展が加速する現在、自動運転技術への期待も高まっています。一方で、「ただじっと見ていなさい」という状態が、システムのあるべき姿として本当に良いのかという疑問も残ります。
人間はやはり完璧ではなく、事故を起こすことがあります。だからこそ機械の補助は必要です。そう考えると、人間が普段の運転操作に何らかの形で関与しつつ、適宜システムがサポートする——完全なマニュアル運転ではないが、常にシステムが支援している「シェアードコントロール」の考え方を推し進めていく必要があるという議論があります。
シェアードコントロールといっても、システムの能力には限界があります。システムが突然「これ以上対応できません」という状態になったとき、いかに人間が制御を引き継ぐかという問題を、あれこれ試行錯誤しているのが現状です。その部分が私たちの研究の核心でもあります。
未来における自動運転の法的な問題との関わりとは何でしょうか?
5〜6年先、あるいはそれ以降を見据えると、自動運転と銘打った車が登場してもおかしくありません。ただ、それは先ほど述べたような常時監視型——人間が基本的に見ていることを求められる形にならざるを得ません。技術的な問題もありますが、法的な問題も大きく関わっています。
国際条約や道路交通法の現状が変わらない限り、運転席に座っている人の責任となります。その責任の範囲内で行われるということは、常にモニターして必要に応じて介入できる体制を維持した自動運転、という形にならざるを得ないと見ています。5年先であればそのような形になるでしょう。さらに、法体系を5年で変えるのは現実的に難しいとも感じています。
普段使われる言語や学生の実情、また医療分野との関わりについて教えてください。
シミュレーションそのものは比較的歴史が長いので、CやC++で書くことが多いです。基本的には車両運動の部分とは完全に切り離されており、UDPで通信させるような形で動かしています。
私の研究室ではCで教育を受けるため、学生もCかC++を使う人が多いです。シミュレーターによってはシナリオを編集するツールを持つものもありますが、複雑なロジックを組むのはなかなか難しく、細かい部分は手でプログラムを書きます。データ構造の設計よりも、ロジックをどの順番でどう動かすかという点を重視しています。
情報科学類は「プログラミングをやる学部・学科」というイメージが強く、高校生のころからプログラミングに取り組んできた学生も多いです。私自身、学部時代に入ってみて「プログラミングが得意な人は本当にすごい」と感じ、そこで勝負するのではなく、システムの信頼性という切り口を選んだという経緯があります。プログラミングとしては、高度な能力は実はそれほど必要なく、Cが普通に書けて、if文・条件分岐が書ければ十分です。
修士課程への進学率は、学類全体の7〜8割に比べて、うちは平均すると半分ほどです。それ以外の学生は、研究テーマの性質上、自動車メーカーやサプライヤーへ就職する方が多いです。私が担当しているのは3年生向けの統計学で、心理実験的なアプローチでデータを取得・分析するために必須の科目です。2年生向けには情報理論も教えています。
また、最近は全く異なる文脈で医療分野との関わりも広がっています。脳卒中や視野の異常など、知覚・認知能力に問題を抱える方が、リハビリ後に「また運転したい」と希望した場合、医師がその可否を判断します。その判断基準をどう設けるか、あるいはシミュレーターを使って簡便に評価できないか——そういった取り組みも始めています。視野に異常がある方が運転においてどんな問題を抱えているかを調べ、機械側からどのような支援ができるかを探っています。
最後に、ご覧の皆さんに一言お願いします。
自動車の運転支援という観点では、いかに安全運転のモチベーションを引き出すかが話題になっています。これからのエンジニアがその部分をどう考えるかが、ひとつの鍵になると思います。「私は文系」「私は理系」と区切らない方がいい、とはっきり言いたいですね。心理学的な目で物事を見られるエンジニアになってほしい。両方のスタンスを持っていないと、これからは大変かもしれません。自分の専門性を大切にしながら、それを客観的に・別の観点から批判的に眺める姿勢も重要だと思います。
よくある質問
Q. 自動運転と運転支援の違いは何ですか?
自動運転はシステムが主体的に操作を行う技術ですが、現状では人間が常時監視・介入できる状態が法律上も求められます。運転支援は人間の判断を補助する技術で、シェアードコントロールの考え方に近いといえます。完全な自動化よりも、人間とシステムが役割を分担する形が当面の主流になるでしょう。
Q. 自動運転の実用化はいつごろになりますか?
道路交通法などの法整備や技術的な課題があり、完全な自動運転の実現にはまだ時間がかかるとされています。まずは人間が常時モニターする前提の運転支援システムとして普及が進む見通しです。法体系の整備には数年単位の時間が必要であり、技術と制度の両輪での進展が求められます。
Q. エンジニアを目指す就活生は自動運転分野でどんなスキルが求められますか?
プログラミングスキルはもちろん、心理学・統計学など人間の行動を理解する視点も重要です。自動運転の安全設計には、人間がどう反応するかを読み解く能力が不可欠です。文系・理系の枠を超えた多角的な思考力が、これからのエンジニアには求められます。
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編集後記
文系・理系を問わず、人間への関心を持ちながらエンジニアリングに取り組む姿勢が、これからの就活にも活きてくるはずです。
編集者
エンジニア就活
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