今回は山梨大学キャリアセンターで特任教授を務める山本和美先生に、「キャリアにおける意思決定と自己理解の重要性」についてインタビューをさせていただきました。キャリアカウンセラーとして、幅広い層のキャリアカウンセリングやキャリア教育に携わる山本先生に、キャリアの転機における考え方や効果的な意思決定のプロセスについてお伺いしていきます。
人生の転機を乗り越えるために ─ ストレスと不安のコントロール

私は埼玉大学大学院で教育学修士を取得し、現在は国立大学法人山梨大学のキャリアセンターで特任教授を務めています。また、キャリアカウンセラーとして、「”知る”を広げることで、自身の可能性を広げよう」という考え方をモットーに、学生から社会人まで幅広い層のキャリアカウンセリングやキャリア教育に携わってきました。


転機における意思決定では、「何が譲れないか」という自己理解に加え、就職や転職では望む業界での「自身の市場価値」や「業界の潮流や今後」などの情報収集を行い、複数の選択肢のメリットとデメリットを比較検討していきましょう。
しかし、キャリアの意思決定を行う場合では、「転機におけるストレスや不安をいかに軽減し、希望や意欲を見出すか」の方が重要な要素であると考えています。例えば転職という転機では、これまでの環境や関係性が失われ、新たな日常や役割に適応していくため、自分の能力が通用するのだろうかといった不安が生じるという声をよく聞きます。
そのため、効果的な意思決定プロセスにおいては、単に自己理解、仕事理解、それらを踏まえた比較検討に留まらず、まずは自身にとってのストレスや不安を自覚し、それらをどうコントロールしていくかを考えてみましょう。私自身もこれを意識しながら支援をしています。


常に自分がどうありたいのかや、何が自分にとって不安要素になり得るのかを考え、備えていくことが重要ですね。転機において、不安やストレスとうまく向き合いながら次のステップに進むために心がけておくべきことなどはありますか?
皆さんの考える「キャリアの節目」とは、就職や昇進、転職や起業、定年といった個人のキャリアにおいて重要な決断や変化が求められる瞬間や時期を指すことが多いと思います。これらの節目は、個人のキャリアパスに大きな影響を与え、新たな方向性や挑戦をもたらす可能性があるため、不安や期待が大きく客観的な判断よりも勢いで決断をしてしまう人も少なくありません。
だからこそ、常に自分がどうありたいのか、何が自分にとって不安要素になり得るのかを日頃から考え、備えていくことが、「自分らしい納得のいく転機」ができる重要なポイントであると考えています。
これは、最近注目されている「セルフ・アウェアネス」という考え方です。
セルフ・アウェアネスとは、自分のことを知る「自己理解」に加え、他人からどう見られているのかを理解する「自己認識」のことです。浅い自己分析ではなく、「自分は何者なのか」をとことん深く掘り下げて、自身が「本当にやりたいこと」を見つけ出すことや、他者からのフィードバックを得て、等身大の自分に向き合うといった実践が重要です。
不確実な将来であっても、このような日々の振り返りが、未来を創造していく原動力になっていきます。

成功と失敗から学ぶ ─ 経験を糧にする姿勢

キャリアの中での「成功体験」と「失敗体験」は、どちらも重要な役割を果たすと考えています。成功体験は、自信や達成感となり、更なる挑戦へのモチベーションに繋がります。一方、失敗体験は、その悔しさをバネに、飛躍的な成長の原点となるものです。
大切なことは、どちらの場合であっても、その「体験」を振り返ることで、学びや知識を深めた「経験」という自分自身の糧にすることです。チャーチルは「成功とは、失敗を重ねても、やる気を失わないでいられる才能である」という名言を遺しています。
失敗を恐れず、新たな挑戦に立ち向かうことで、自分にとっての大きな成功につなげていくことができるのです。


キャリア理論に基づいた視点からのメッセージと、個人的に伝えたいメッセージの大きく2つがあります。
まず1つ目について、アメリカのクルンボルツ博士は「プランドハプンスタンスセオリー」という理論において、「キャリアの8割は偶然の出来事によって形成される。だからこそ、自ら、偶然の出来事を引き寄せるよう働きかけていこう」と述べています。
そのためには、失敗しても諦めずに挑戦し続ける「持続性」や、新しい機会は必ずやってくると信じる「楽観性」のほか「好奇心」「柔軟性」「冒険心」を含めた5つの要素が必要です。私自身、これまでのキャリアは、まさにプランドハプンスタンスだったと感じることが多いです。
皆さんもぜひ,良い偶然を引き寄せるために,こだわりを捨て,新しいことに積極的に挑戦してみてください。

2つ目はあくまで個人的なメッセージになります。私のキャリアは、実は上手くいかないことの連続でした。でも、「これは無理だろう」ということであっても、「きっと上手くいくに違いない」と、全く根拠のない自信をもって挑戦してきました。思うようにいかない場面では、自分がコントロールできるか、できないことかを考え、できることには人一倍努力をし、コントロールできないことには腹を立てないと切り替えて取り組んできました。
皆さんには、たくさんの可能性があります。うまくいかないことの連続であっても、「きっと上手くいく」と信じて、自分がコントロールできるところは是非努力してみていただけると必ず道は拓けると思っています。



山梨大学キャリアセンターの基本情報
名称 | 山梨大学キャリアセンター |
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所在地 | 〒400-8510 山梨県甲府市武田4-4-37 |
大学HP | https://www.yamanashi.ac.jp/ |
今回インタビューにご協力いただいた先生 | 山梨大学キャリアセンター 山本和美先生(特任教授) |