今回は常葉大学で准教授を務める鈴木章浩先生に、「キャリアにおける意思決定と自己理解の重要性」についてインタビューをさせていただきました。人的資源管理論、労働経済学に携わる鈴木先生に、キャリアの転機における考え方や効果的な意思決定のプロセスについてお伺いしていきます。
現在研究されている分野・具体的なご活動内容について

私は、技術者のキャリアや仕事の進め方について研究しています。
特に、会社の枠をこえて、大学や他企業といっしょに研究・開発する場面に注目しています。


教育面では、人がどのように仕事に取り組み、どうやって成長していくかをテーマにしています。
たとえば、「どうして会社を辞める人がいるのか?」「チームでうまく働くには何が大事か?」といった、学生にも身近に感じられる問いからスタートします。


印象に残っているのは、企業が海外の大学と共同研究をするとき、技術水準の高さだけでは成功しないことが明らかになったことです。
実は、相手の立場を理解したり、自分たちの信念を伝え続けたりできる「人としての力」もとても大事なんです。


産業界と学術界の研究開発活動のコラボレーションに注目しています。
とくに、多国籍企業が国内外で協働のベストパートナーを求める中、社外連携を成功させる要因の解明が重要なテーマとなっています。


今の時代、ひとつの会社だけでイノベーションを起こすのは困難です。
私は、企業の社外連携が成功し、もっと良いサービスを生み出せるように支えたいと考えています。

研究者としてのこれまでのご経歴・キャリアパス

メーカーの営業職としてキャリアをスタートさせましたが、研究や教育への情熱は常に持ち続けていました。
研究者を目指すきっかけとなったのは、知識を創造する技術者のキャリアや能力開発への関心です。
というのも、営業時代に出会った技術者たちの知識と現場の課題を結びつける姿勢に大きな刺激を受けたからです。


最も難しかった決断は、安定した企業を離れ、ポストの限られた研究職に飛び込むことでした。
大きなリスクを伴いましたが、研究職への思いが揺るがなかったため、迷いはありませんでした。


民間企業に在籍した頃のビジネスの視点は、研究テーマの実務的意義を見極めるうえで貴重な経験となっています。
前職で抱いていた疑問や様々な人との巡り合いが、現在の研究活動の多角的なアプローチに活かされています。

キャリア形成と意思決定に関する知見

効率的な意思決定のプロセスとして、まず自身のスキルが新しい環境でどのように活かせるか分析し、転職によって得られる知識やネットワークの価値も評価しましょう。
次に、過去の実体験を振り返り「どのような時にやりがいを感じたか」を具体的なエピソードで掘り下げることが有効です。
最後に、組織から期待される役割や求められていることを明確にし、主体的に他者と交流しながら自分らしい選択を心がけてください。


自己分析というと、自分の長所や短所を抽象的に語る方も多いのですが、過去の実体験に基づく振り返りが有効です。


転職を考える際にはスキルの移転可能性の視点が重要です
自身の専門性を新しい組織・役割にどのように適合させるかを分析しましょう。
また、転職によって獲得できる新たな知識やネットワークの価値を評価する必要もあります。


転職により、自分の言動に対する職場での評価がどう変わるかが判断基準の一つになると思います。
同じことをしていても、ある組織では評価され、別の組織ではそれほどでもないということがしばしば見られます。


これからは、正解のないキャリアを生きることになると思います。
また、巷には転職やキャリアに関する情報があふれています。
そんな時代だからこそ、主体的に他者と交流したり、学んだりする「プロアクティブ行動」を通して、自分らしく誠実に働ける選択をすることが大切です。


私は社外連携がうまくいくための要因を研究したり、人がどうやって仕事で成長していくかをテーマに教えていますが、大切なことは会社から個人に対する期待や役割がどれだけ明確になっているか、という点です。
何を求められているのかがわかっているかどうかが、働くうえでの安心感や自己効力感を左右するポイントなのです。

転職者・キャリア形成中の方へのアドバイス

プラスの情報だけでなく、マイナスの情報も含めて多くの人から意見を聞くことが、納得のいく判断につながります。最終的に決めるのは自分ですが、その意思を支えるために情報の厚みが必要です。


「どんな仕事を通じて、自分はどう成長してきたか」、「成長を可能にした環境は何か」という視点で職務経験を振りかえってみましょう。
そのことで、キャリアの軸ができ、変化の激しい社会でもゆるぎないキャリア構築ができます。


単に、仕事が「自分に合うかどうか」を考えるのではなく、転職の候補となる職場で「誠実に仕事ができるか」という視点を持ってほしいと思います。


不安や迷いを無理に消す必要はなく、その理由を言語化することが大切です。
言語化することで不安や迷いに対する備えにつながり、うまく準備できれば手ごたえに変わっていきます。


近年、キャリアは「組織から与えられるもの」から「自分で設計していくもの」へ変わっており、「境界のないキャリア」 という概念も知られるようになりました。
特に技術人材の場合、テクノロジーの進化が速いため、継続的な学習やキャリアの再設計が不可欠です。
ただし、その柔軟性の裏側で、自己のアイデンティティを保ちながらキャリアの方向性を見失わないことが課題です。
過去の経験の棚卸しを通じて、「変わらない自分」と「変わりたい自分」の両方を可視化することが、次の一歩を明確にすることにつながるでしょう。


常葉大学の基本情報
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大学HP | https://www.tokoha-u.ac.jp/ | 今回インタビューにご協力いただいた先生 | 常葉大学 鈴木章浩先生(准教授) |