今回は東京家政学院大学で准教授を務める金森敏先生に、「キャリアにおける意思決定と自己理解の重要性」についてインタビューをさせていただきました。経済・キャリアに携わる金森先生に、キャリアの転機における考え方や効果的な意思決定のプロセスについてお伺いしていきます。
現在研究されている分野・具体的なご活動内容について

私は組織行動論をベースとして、経営学やキャリア形成に関する教育・研究活動に取り組んでいます。


近年のゼミ活動では「老舗」をテーマとしました。
学生たちは文献調査とKJ法を駆使し、「老舗企業における分析枠組み」を作成し、この成果は東京家政学院創立100周年記念、第18回企画展の「学生成果展」にて展示されました。


これまでの研究活動で特に印象に残っている成果は、学生の就職先相談相手を調査した結果、「母親」を選ぶ学生が最も多かったという発見です。
この結果は、キャリア支援には学生本人だけでなく、母親の関与が重要であることを示しています。今後は、母親も含めたキャリア支援が必要であると感じています。


たとえば、「母親を対象に就職に関する最新情報の提供」や、「実際にインターンシップに参加してもらう」といった取り組みは、非常に興味深く意義のある試みだと感じます。
母親自身がキャリアに関する現場を体験することで、学生の就職支援への理解やサポートの在り方も変化し、より効果的なキャリア支援につながるのではないかと考えます。


現在の研究関心は「老舗企業」に向けられています。
一見すると変化がないように見える老舗企業が、実際には時代に応じて巧みに適応してきた戦略には多くの学びがあります。
また「伝統維持の本質とは何か」「変化にどう向き合うか」といった抽象的な問いから出発し、それを具体的な行動計画へと落とし込む思考法を学生と共に実践しました。
もう一点、生成AIを活用することによる働き方の変化、またそれによる仕事や組織の在り方の変化といった点について、研究動向を注視しています。
この分野の研究は、今後ますます重要性をますと考えており、積極的に取り組む必要があると感じています。


先ほどもお話ししましたが、一つは母親を含めたキャリア支援の重要性を明らかにしたことです。
もう一つは、産学連携の取り組みの一環として「元祖くず餅の船橋屋(創業220年)」さんなどの老舗企業の協力を得て、学生と老舗企業の出会いの場「100年企業フェスティバル」を開催したことです。このイベントは、話題性も高くテレビやメディアに取り上げられ、老舗企業について理解を深める貴重な機会となりました。

研究者としてのこれまでのご経歴・キャリアパス

私のキャリアの大きな転機は、東北から四国への移動でした。
人脈がほとんどない土地での生活は、人間関係を一から構築する貴重な経験となり、現在の研究・教育スタイルに大きな影響を与えています。


東北時代の研究テーマは「社内企業家のキャリア」でしたが、四国へ移動すると地域特性によって研究の方向性が変化しました。
地元中小企業が中心となる環境に変化したことで、私の関心は「学生と地元企業をどう結びつけるか」というキャリア支援へと移行しました。
このように、場所によって直面する環境の変化や課題が、自分を成長させることにつながっているのだと思います。


東北から四国への移動によって経験したことは、現在までのキャリアに大きな影響を与えています。
この経験が研究テーマの進化、多角的な視点を持つ研究者へと成長するきっかけになったと考えています。

キャリア形成と意思決定に関する知見

キャリア形成と意思決定に関する知見として「ハーバード流 キャリアチェンジ術」(2003年)を紹介します。39人の実例をもとに「行動しながら自分を発見する」というアプローチをハーミニア・イバーラは提案しています。
まずは考えすぎずに動き、行動から自分を発見するという自分らしいキャリアを築くために勇気を与えてくれるアプローチ法です。


成功するキャリア転換の9つのポイントとして、
1. 行動優先: 考えすぎず、まず動き、経験から学ぶ
2. 複数の可能性を試す: 一つに絞らず、複数の選択肢を並行して探る
3. 矛盾を許容: 完璧な一貫性を求めず、曖昧さを受け入れる
4. 小さな積み重ね: 急激な変化より、小さな実験の積み重ねで成長する
5. 新しい役割に挑戦: 現状の役割にこだわらず、新たな立場を経験する
6. ロールモデルを見つける: 目標とする人から学び、刺激を得る
7. 自らチャンスを作る: 機会を待つのではなく、積極的に作り出す
8. 適度な熟考: 考える時間も必要だが、長すぎる熟考は避ける
9. 決断力: チャンスが来たら躊躇せず掴む勇気を持つ
というものがあります。


転職を考える際は、「行動しながら自分を発見する」ことが重要です。
完璧を求めず、複数の選択肢を並行して小さな実験を積み重ね、機会を待つのではなく積極的に作り出すという視点をもつと良いと思います。


現代社会におけるキャリア形成は、先ほど紹介したイバーラの転職実践ガイドによる、従来の「自己分析してから行動」ではなく、「行動しながら自分を発見する」というアプローチがヒントになるのではないでしょうか。


キャリア選択においては、「自分が本当にやりたいこと」や、「どのような人生を送りたいか」という抽象的な問いから出発して、それを具体的な行動に落とし込んでいくといった方法があります。
またそれとは逆に、日々の生活での気づきや行動といった具体的な内容から、自分自身の価値観や人生の目的といった抽象的な問いへと繋げていくやり方も大切です。
このように、柔軟に「具体と抽象を行き来する」思考アプローチは、キャリア選択においても非常に有効な考え方だと思います。

転職者・キャリア形成中の方へのアドバイス

「成功」の対義語を知ってもらいたいです。辞書的には「失敗」かもしれません、ですが人生やキャリアにおいて真の成功の対義語は「行動しないこと」だと考えています。
失敗は必ず学びをもたらし、次への踏み台となります。しかし、行動しなければ状況は変化せず、成長の機会そのものを逃してしまうのです。
とくに可能性に満ちた若い時期に「変化のチャンス」を逃すことは計り知れない損失となります。


完璧な計画や確実な成功を求めて立ち止まるのではなく、まずは一歩を踏み出してください。その一歩が次の道を照らし、さらなる可能性を開いていくのです。


「自分探し」という言葉がありますが、自分というものは真空の中では見つかりません。社会と関わり、さまざまな経験、ときには挫折を通じてこそ「自分らしさ」が徐々に浮かび上がってくるものです。
あなたの強みや情熱は、実際に行動してはじめて明確になります。


未来は行動する人のためにあります。完璧を目指して動かないよりも、不完全でも前に進む勇気をもってください。


完璧な計画や確実な成功を求めて立ち止まるのではなく、まずは一歩を踏み出すということが大切です。
その一歩が、あなただけの輝かしい物語の始まりとなります。


こちらこそ、本日はありがとうございました。

東京家政学院大学の基本情報
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大学HP | https://www.kasei-gakuin.ac.jp/ | 今回インタビューにご協力いただいた先生 | 東京家政学院大学 金森敏先生(准教授) |