今回は奈良県立大学で理事・副学長を務める 石井宏典先生に、「キャリアにおける意思決定と自己理解の重要性」についてインタビューをさせていただきました。教育政策を中心に研究している 石井先生に、キャリアの転機における考え方や効果的な意思決定のプロセスについてお伺いしていきます。
現在の研究されている分野・具体的なご活動内容について
AI、IoT、ロボット等、技術革新が急速に進むソサエティ5.0(超スマート社会)では、これまで不可能と思われたことが次々と実現しています。このような時代には、正解のない問い(社会的課題等)と向き合い、その解決に向けて行動できる人材を育成することが必要です。
そこで、私は「探究的学びを基盤とした学校教育モデル」の構築、とりわけ高大連携・接続を念頭に置いたモデルを構築し、実際の運営を通して実践的に検証することに取り組んでいます。
モデル校として、令和4年4月に新設した奈良県立大学附属高等学校では、生徒が自らテーマを設定し、大学教員の助言を受けながら課題探究を進める仕組みを整えました。また、反転学習を前提としたアクティブラーニング型授業、ICT活用教育、ライフキャリア教育等の導入により、生徒の主体性・創造性を育む環境づくりにも注力しています。
私は現在、大学法人理事・副学長、附属高校長等の学務の関係上、授業は担当していませんが、これまでは「地域教育政策論」を担当していました。
この授業では、初等・中等教育段階の学校を対象に、地域教育政策のあり方を検討しています。ソサエティ5.0(超スマート社会)の到来といった新たな時代状況への対応、多様化・高度化する学校教育をめぐる課題を、教育改革の文脈の中で理解を深めていきます。
また、教育政策の意思形成過程に関わる教育行政の実務担当者等をゲストに迎え、実務と理論の両面から学ぶ機会を設けています。さらに、事前課題による反転学習を前提にし、グループディスカッションやプレゼンテーション等のアクティブラーニングを重視することで、学生が自らの視点で地域教育政策を構想する力を育てています。
研究の社会貢献とは、研究活動によって得られたさまざまな知見を社会に還元し、その時代に求められる教育の実現や、人材育成に貢献することだと考えています。
その意味では、奈良県立大学附属高等学校での実践は、まさにその典型と言えるでしょう。
探究的学びを通じて、生徒が地域課題に向き合い、社会に貢献する姿勢を育むことは、教育の公共性を体現するものです。
また、生徒の主体性と創造性を尊重する学校風土によって、既成概念や前例踏襲といった思考の枠組みから解放され、物事をロジカルに、そして、クリティカルに捉える姿勢が確立するのではないかと考えています。
こうした取組を情報発信することで、全国各地から多くの視察があり、授業見学や特色ある教育プログラム等の紹介をしています。本校を参考に、新設校を設置する自治体もあり、これも一つの社会貢献ではないかと考えています。
最近注目しているのは、「行為主体性(Student Agency)」と「課題設定力の育成」です。OECDのEducation2030プロジェクトでも強調されているように、未来社会では自ら問いを立て、行動する力が不可欠です。
附属高校では、生徒自身の興味や関心に基づいてテーマを設定し、大学教員の助言を受けながら探究活動を行う学びを実践しています。地域との協働による探究学習や、ICTを活用した開かれた学びは、教育のリアリティを高める手法として注目されています。
研究者としてのこれまでのご経歴・キャリアパス

私は、高等学校教員としてキャリアをスタートし、教育委員会事務局や知事部局での教育施策の立案・実行、研修等の制度設計、そして高等学校長として実際に学校経営に携わりました。
こうした中、理論的な裏付けの必要性を痛感し、学術的な知見を獲得するために大学院博士課程で教育政策学を学ぶことにしました。それが契機となって、大学教員を目指すこととなり、縁あって現在の大学で勤務するようになりました。
特に、附属高校設置準備室長として、自分がこれまで蓄積してきた経験・知見をもとに、理論と実践を融合させた教育モデルの構築に取り組めたことは大きな転機だったと感じています。
最も難しかった決断は、公立大学法人としては全国初の附属高校を新設するためのプロジェクトの準備室長として、責任を引き受けたことです。
そのプロジェクトは、高校3年生で週2日大学の講義に出席し、試験を受けて単位修得を認めるという、極めて高度な大学との連携・接続を試みるという前例のない挑戦でありました。
設置認可に当たっては、精神的にも大きな負荷がありました。しかし、これを乗り越えられたのは、時代の要請に応える新たなカタチの高校教育モデルを、何としても構築するという強い使命感と、段階的に制度設計を進めたことによる信頼の積み重ねであったと思っています。
キャリア形成と意思決定に関する知見
私が大切にしているのは、「理念に照らして選択すること」と「現場の声を聴くこと」です。新たな教育制度の設計や学校改革の場面では、現場の課題やニーズを丁寧に拾い上げ、それを理念と照らし合わせながら、将来の社会像に合致するかどうかを検討する必要があると考えます。
例えば、附属高校設置の際には、教育の本質に立ち返って構想を練りました。具体的な教育プログラムを検討する際にも、複数の選択肢を比較し、短期的な成果よりも中長期的な社会的インパクトを重視するよう心がけました。
意思決定には迷いがつきものですが、関係者との議論と対話を重ねることで、確証バイアスを避け、納得感のある判断ができるようになると思います。
自己分析では、「自分が何に価値を感じるか」「どんな場面で力を発揮できるか」を見つめ直すことが重要です。私の場合、「教育を通じて社会に貢献する」という軸を持ち、蓄積してきた知見・経験や人脈から、教育理論や教育制度と教育現場を繋ぐ役割に強みがあると自覚しています。
キャリアの節目では、これまでの業務経験等を振り返り、身に付けた知識やスキルなどを再確認することも必要です。私の場合、成功体験だけでなく、葛藤や失敗から得た学びにも目を向けました。
さらには、自分自身を俯瞰して見る機会を持つことも大切です。他者との対話を通して自分の強みや課題に気付くこともあります。自己分析をすることは、自分の未来の選択を支える基盤になると思います。
転職を考えるときに大切なのは、「自分の専門性が活かせるか」、「社会的意義があるか」、「自分自身が成長できるか」を重視することです。
教育分野では、理論と実践の往還が可能な環境であるかどうかが転職の成否を分けると考えます。
私自身、教育行政から大学教員へとキャリアを移す際、これまでの経験が研究や教育にどう活かせるかを見極めました。附属高校設置という挑戦では、自分の教育行政の経験と教育研究の知見が十分に活かせると確信しました。
また、地域社会に貢献できるのではないかという手応えも同時に感じていました。転職は、環境を変えるだけでなく、自分自身の使命を再確認する良い機会にもなると思います。
転職者・キャリア形成中の方へのアドバイス

転職は、単なる職場の変更ではなく、自分の価値観や人生観を再確認する機会であり、人生の方向性を改めて見つめ直す貴重な機会でもあると考えます。
私自身、高校教員から教育行政、大学教員へと人事異動も含め複数の仕事を経験しましたが、常に「教育を通じて社会にどう貢献したいか」という問いを軸にしてきました。
現職への不満が転職を考えるきっかけならば、今一度熟考し、「納得はできないが理解はできる」という程度のことであれば、思い止まることも必要かも知れません。一方で、新しい挑戦をするのであれば、次の職場で何を実現したいのか、どんな価値を提供できるのか等を明確にした上で検討することが大切だと思います。
転職は勇気のいる決断ですが、過去の経験を活かしながら、新しい価値を創造する挑戦でもあります。焦らず、丁寧に自分と向き合う時間を持ち、ご自身の軸を探してみてください。
これからの時代を生きる皆さんへ伝えたいのは、「正解のない問いに向き合う力」を育んで欲しいということです。AI等の技術革新が一層進展する社会では、知識の獲得だけではなく、課題を見つけ、仲間と協働しながらその課題解決に挑む力が求められます。
私が附属高校で生徒綱領として掲げた「自立・貢献・挑戦」は、まさにその力を育てるための行動指針です。失敗を恐れず、好奇心を持って、新たなことや困難な課題に果敢に挑戦し続けることで、自分では思ってもみなかった素晴らしい未来が開けるのではないかと思います。
社会は変化し続けますが、自分の軸を持ち、学び続ける姿勢があれば、どんな時代でも輝けるはずです。自分の可能性を信じて、一歩ずつ前へ進んでください。
奈良県立大学の基本情報
| 名称 | 奈良県立大学 |
|---|---|
| 所在地 | 〒630-8258 奈良市船橋町10番地 |
| 大学HP | https://www.narapu.ac.jp/ | 今回インタビューにご協力いただいた先生 | 奈良県立大学 石井宏典先生(理事・副学長) |


