今回は桐蔭横浜大学で准教授を務める松井晋作先生に、「キャリアにおける意思決定と自己理解の重要性」についてインタビューをさせていただきました。地域社会学、サステナブル社会学、地域共生論を担当されている松井先生に、キャリアの転機における考え方や効果的な意思決定のプロセスについてお伺いしていきます。
研究背景・専門領域に関する質問

日本におけるESDの形成過程を研究テーマとしています。ESDはEducation for Sustainable Developmentの略で、「持続可能な開発のための教育」と訳され、持続可能な社会の創り手を育む教育を意味します。
環境や開発の問題、人権やジェンダーの問題などについて、身近なところから取り組む「Think globally, act locally(地球規模で考え、地域から行動する)」という視点を大切にしながら、問題の解決につながる新たな価値観や行動の変容を生み出すために、私たちにはどのような持続可能な取り組みが必要かを研究しています。
授業では、「地域社会学」「サステナブル社会学」「地域共生論」などを担当しています。いずれの授業でも、講義を一方的に聞くだけではなく、学生の主体的な学習活動を中心としたプロジェクト型学習(PBL:Project-Based Learning)を取り入れています。学生が自分にとって身近で関心のある課題を発見し、その解決方法を考えるために、フィールドワークやインタビュー調査なども積極的に実施しています。
高校では、基礎学力をしっかりと身につけることが重要です。特に、中学校までに学んだ英語・数学・国語・理科・社会などの基礎が十分に定着していないと、将来の進路やキャリアの選択肢を狭めてしまう可能性があります。
しかし、基礎学力を身につけるだけでは、社会で生きていくために必要な力として十分とはいえません。現在、高校では「主体的・対話的で深い学び」を重視した授業が展開されています。仲間とコミュニケーションを取りながら、自ら学ぼうとする姿勢を身につけていくことが重要だと思います。
大学では、「Will・Can・Must」という3つの視点を意識して、自分のキャリアや目標を考えてほしいと思います。Willは「やりたいこと」、Canは「できること」、Mustは「やるべきこと」です。
自分自身の価値観を大切にしながら将来のあり方を模索するためには、授業だけでなく、部活動、サークル、インターンシップ、アルバイトなど、さまざまな経験を積むことが大切です。多様な人々と関わりながら、「自分は何を大切にし、社会の中でどのような役割を担いたいのか」を考えていくことが、大学から社会への移行にもつながると思います。
キャリアの意思決定・自分自身との向き合い方
私のキャリアにおける最初の大きな節目は、高校教員になったときです。大学院修了後、自分が最も興味を持っていた歴史教育を教えながら研究も継続できると考え、社会科の教員になりました。
高校教員の仕事では、授業と同じくらい、生徒との関わり、特に学級経営が重要です。目の前の生徒がどのような進路を目指したいのかを一緒に考えることは、その人の人生にも関わる大きな役割であり、そこに大きなやりがいを感じていました。
次の大きな節目は、大学教員になったときです。恩師の助言をきっかけに大学へ移ることになりました。大学教員は研究や社会貢献も重要な仕事になりますので、高校教員とは仕事の内容やバランスが異なります。しかし、「教育を通して人の成長に関わる」という点では、大きく異なるものではないと感じています。
振り返ってみると、私自身のキャリアは、人との関わりによって形成されてきました。そのため、家族や友人をはじめ、さまざまな人とのつながりを大切にしながら、「社会に貢献できること」と「自分自身が関心を持てること」の両方を大切にすることが、私にとって進路やキャリアを選択する際の基準になっています。
主体的な学びについて考える際には、桐蔭学園の溝上慎一理事長が示している「主体的な学習スペクトラム」が参考になります。そこでは、主体的な学習が「課題依存型」から「自己調整型」、さらに「人生型」へと段階的に捉えられています。
上記ウェブサイトの内容を引用しつつ、簡単に説明しますと、まずは、自分自身が興味・関心を持って学習に取り組むことが重要です。次に、「毎日英単語を10個覚える」といった学習目標を設定したり、「声に出して単語を覚える」といった学習方略を工夫したりすることが必要になります。また、「自分の考えに矛盾はないか」と振り返るメタ認知も重要です。こうした方法を用いて、自分自身の学びを方向づけ、調整することを習慣化していきます。
さらに、「資格試験に合格する」といった中長期的な目標だけでなく、「私はどのような人間になりたいのか」というアイデンティティの形成や、自分自身のウェルビーイング(幸福感)についても考えながら学んでいくことが大切です。
このように、学ぶ目的を少しずつ広げ、自分自身で学びを調整できるようになることが、主体的な学習姿勢や習慣を身につけることにつながると思います。
キャリア形成と日本の雇用環境
もっと世界に出て、異文化と出会う経験をしておけばよかったと思っています。これは留学に限った話ではありません。旅行なども含め、世界のさまざまな国や地域を訪れる機会が学生時代には十分ではなかったことが、今振り返ると心残りです。
異なる性別、世代、国籍、言語、宗教、価値観、生き方、習慣など、さまざまな「自分とは異なるもの」にもっと出会っていれば、自分の視野はさらに広がっていたと思いますし、友人や仲間とのつながりも、さらに広がっていたのではないかと思います。そうした経験は、自分自身の教養を深めるだけでなく、人としての価値観や経験にも厚みを与えてくれるものだと考えています。
初等教育や中等教育において生成AIをどこまで活用していくのかという議論は今後も必要ですが、情報活用能力やAI時代に対応した資質・能力が求められる社会は、すでに現実のものになりつつあります。
パソコンやスマートフォンが社会に普及したのと同じように、生成AIも次第に社会へ浸透し、教育現場や職場で日常的に活用されるものになっていくと思います。当然、私たちの学び方や働き方にも大きな影響を与えるでしょう。
一方で、AIが普及するからこそ、「自ら考え、主体的に行動し、その結果に責任を持ちながら社会に働きかけていく力」であるAgency(エージェンシー)は、これまで以上に重要になると考えています。AIを活用すること自体が目的なのではなく、AIを活用しながら「自分は何をしたいのか」「社会にどのように関わっていきたいのか」を考えることが重要です。Agencyを育むことで、個人と社会双方のウェルビーイングに向けて自らを方向づけていくことの重要性は、AI時代においても変わらないと思います。
先生の専門的視点からのメッセージ
「社会が大きく変化している」「大きな変革の時代を迎えている」といった言葉を耳にすることがあります。しかし、振り返ってみれば、社会はどの時代においても変化を続けてきました。
だからこそ、学生や若手社会人の皆さんには、キャリア観や働き方が変化する中でも、自分自身の価値観を大切にしながら、常に「自分が成長している」と実感できる状態を目指してほしいと思います。
そのためには、自律的に学び続ける意欲を持つこと、そして他者と協働し、コミュニケーションを取りながら、自分自身が成長できる環境をつくっていくことが大切です。持続可能な社会を実現するためには、私たち一人ひとりの思考と行動の変容が必要です。そして、社会を変えていくためには、まず自分自身が学び、変わり続けなければなりません。
「学び続けることが、自分の未来をつくり、社会の未来をつくる。」これからキャリアを築いていく皆さんには、ぜひそのことを大切にしてほしいと思います。
桐蔭横浜大学の基本情報
| 名称 | 桐蔭横浜大学 |
|---|---|
| 所在地 | 〒225-8503 神奈川県横浜市青葉区鉄町1614番地 |
| 大学HP | https://toin.ac.jp/univ/ |
| 今回インタビューにご協力いただいた先生 | 桐蔭横浜大学 松井晋作先生(准教授) |


