今回は京都西山短期大学で教授を務める延原宏先生に、「キャリアにおける意思決定と自己理解の重要性」についてインタビューさせていただきました。共生社会学科を担当されている延原先生に、キャリアの転機における考え方や効果的な意思決定のプロセスについてお伺いします。
研究背景・専門領域に関する質問
私の専門はPBL(課題解決型学習)、地域活性化、社会ネットワーク理論、情報教育です。これまで高校・大学の教育現場に携わりながら、商業高校生が商店街や地元企業と取り組む商品開発やまちづくりを継続して見てきました。
私が関心を持っているのは、活動が成功したかどうかだけではありません。生徒が地域の大人と出会い、考え方の違いに戸惑いながらも、自分の役割を見つけていく過程そのものです。
研究では、グラノヴェッター(Mark Granovetter)の「弱い紐帯の強み」やバート(Ronald Burt)の「構造的空隙」を手がかりに、人と人、組織と組織の間に新たな関係が生まれる過程を分析しています。授業でもPBLや情報教育を軸に、学生が地域や企業の課題を自分で調べ、考え、提案することを重視しています。
また、Pythonや生成AIも実際に使い、その便利さだけでなく、誤りや限界を含めどう付き合うかを学生と一緒に考えています。
私がPBLの実践を通して何度も感じてきたのは、目の前の依頼をそのまま「課題」だと思い込まないことの大切さです。エンジニアの仕事でも、すぐにコードを書き始める前に、「本当に解くべき問題は何か」を確かめる時間が必要だと思います。
私が関わってきた地域活性化などの活動でも、大人が考えていた課題と、店舗の方や来街者が実際に困っていることが一致しない場面がありました。そこで生徒は、話を聞き、現場を見て、自分たちの案を何度も修正していきます。
私は、この「問い直す」作業こそPBLの核心だと考えています。エンジニアにも同じことが言えます。
技術を知っているだけでなく、相手の話を聞き、異なる立場を整理し、必要であれば最初の仮説を捨てる。その姿勢があって初めて、技術が相手にとって意味のあるものになるのではないでしょうか。
「弱い紐帯」は、毎日顔を合わせる同僚や親しい友人とは少し違い、以前の職場の知人、講習会で知り合った人など、ゆるやかにつながっている相手との関係を指します。私はキャリアを考えるうえで、こうした関係が意外に重要だと感じています。
身近な人とは異なる職場や分野にいるからこそ、自分の周囲にはない情報や考え方を持っていることがあります。一方、「構造的空隙」は、普段あまり接点のない集団の間をつなぐ位置に注目する考え方です。
エンジニアなら、開発と営業、ITと地域産業の間に入り、双方の言葉を理解できる人が近いでしょう。ただし、人脈を増やせばよいという話ではありません。
まず自分の専門を持ち、そのうえで少し外へ出る。そこで得た知識を相手に返し、信頼を積み重ねる。その繰り返しが、結果として次の仕事や役割との出会いにつながるのだと思います。
効果的なキャリア形成の考え方と選択肢の見極め方

私がこれまで仕事を選ぶときに考えてきたのは、「今の自分にできるか」よりも、「そこで自分がどう変われるか」ということでした。新しい職場に移れば、最初からすべてに対応できるわけではありません。
私自身も、環境が変わるたびに、これまでの経験がそのまま通用しない苦しさを何度も味わってきました。それでも、その苦しさを「選択を間違えた証拠」とは考えませんでした。
むしろ、過去の自分のやり方から離れ、新しい力を身につける途中にいると受け止めてきました。できなかったことが一つできるようになる。
その瞬間を面白いと思えることが、次へ進む力になります。ですから、キャリアを現在の能力という一点だけで判断するのではなく、その職場で何を学び、数年後にどんな自分になっていたいのかという時間軸で見てほしいと思います。
「今できること」から仕事を選ぶのではなく、「これからできるようになりたいこと」も含めて選ぶ。私はその考え方で、自分の進路を決めてきました。
学生や若手の方から、「どの技術を身につければ市場価値が上がりますか」と聞かれることがあります。もちろん技術力は必要です。
ただ、私は技術名だけで自分の将来を決めない方がよいと思っています。技術のトレンドは変わりますが、「誰が何に困っているのか」を聞き取り、相手と話しながら解決策を考える力は、職場が変わっても残ります。
転職先を見るときも、年収や企業名だけでなく、そこでどんな人と働き、どの程度仕事の意思決定に関われるのかを見てください。私は、面接で「技術選定は誰が決めますか」「失敗したとき、チームではどう振り返りますか」と尋ねてみるのもよいと思います。求人票には書かれていない職場の考え方が見えるからです。そして、「今の職場を離れたい」という思いだけで終わらせず、「次の環境で何を学びたいのか」を自分の言葉にしてみる。
その答えが、自分に合う選択肢を見極める一つの基準になると思います。
生成AI時代のキャリアと自己分析について
自己分析というと、資格や得意な技術を書き出す作業を想像しがちですが、私は「これまで何をしてきたか」を具体的な行動で振り返る方が役に立つと思います。たとえば「Pythonが使える」だけでなく、「曖昧だった要件を整理した」「意見の違う人の間に入って話をまとめた」と書いてみる。
すると、会社や職種が変わっても持ち運べる自分の力が見えてきます。また、自分一人で考え続けるより、元同僚や勉強会で知り合った人に「自分のどこを評価していますか」と聞いてみるのも有効です。
思いがけない答えが返ってくることがあります。キャリア理論でいう「計画的偶発性理論」は、偶然をただ待つのではなく、自ら動いて機会に変えていく考え方です。
私はこの考え方が現実のキャリアに合っていると思います。一年以内に試したいことと、三年ほど先に担ってみたい役割を設定し、実際に動いてみる。手応えが違えば修正する。キャリアは一度決めて守る計画というよりも、経験しながら書き換えていく仮説に近いのではないでしょうか。
生成AIが広がり、コード生成やデバッグ、文書作成の速度は確かに向上しました。だからといって、「AIに奪われない仕事は何か」と身構える必要はないと私は考えています。
むしろ、AIに任せてよい部分と、自分で考えて決める部分を区別できることの方が重要です。私自身、授業や研究でPythonや生成AIを使っていますが、一見もっともらしい誤りや前提のずれに出会うことがあります。出力されたコードが動いたとしても、それで終わりではありません。安全性や著作権、個人情報、セキュリティまで含めて、「これは本当に使ってよいのか」を判断するのは人です。
若いエンジニアの方には、新しい道具を怖がらず、まず使ってみてほしいと思います。ただし、便利だからといって任せきるのではなく、「なぜこの答えを採用したのか」を説明できるところまで自分で確かめる。その習慣を持つ人は、AIがさらに進歩しても強いのではないでしょうか。
先生からのメッセージ
これからキャリアを築いていく皆様に、私が長く心に置いてきた「できる、できる、必ずできる」という言葉を贈りたいと思います。もちろん、何をしても必ず成功するという意味ではありません。
また、私は武者小路実篤の生き方や言葉から大きな影響を受けてきましたが、仕事や環境を変えるたびに、「本当に自分にできるだろうか」と迷うこともありました。それでも、できるようになってから進むのではなく、進んだ先でできることを増やせばよい、と考えてきました。
新しい環境では、思うようにいかず、自分の力不足を知ることもあります。しかし、昨日までできなかったことが少しずつできるようになる。その変化を実感できれば、苦しい時間の見え方も変わります。今の自分だけを物差しにして、将来の可能性を狭めないでください。
まず一歩動いてみる。そして、そこで学んだことを次の一歩に生かす。私はその繰り返しが、自分自身のキャリアをつくっていくのだと思っています。
京都西山短期大学の基本情報
| 名称 | 京都西山短期大学 |
|---|---|
| 所在地 | 〒617-0811 京都府長岡京市粟生西条26 |
| 大学HP | https://seizan.ac.jp/ |
| 今回インタビューにご協力いただいた先生 | 京都西山短期大学 延原宏先生(教授) |


