今回は大阪国際大学で准教授を務める山本幸一先生に、「キャリアにおける意思決定と自己理解の重要性」についてインタビューをさせていただきました。キャリア教育・産学協働教育・人材マネジメントに携わる山本先生に、キャリアの転機における考え方や効果的な意思決定のプロセスについてお伺いしていきます。
現在研究されている分野・具体的なご活動内容について

経営学における人材マネジメント論を専門としています。主に新卒の募集戦略および初期育成です。
研究のテーマとしては、今を生きる若者の姿にフォーカスをして「キャリア教育のあり方および教育方法」を主なテーマとしています。


これまでに、多くの若者と出会ってきて「今を生きる若者の姿」に目を向けたとき、未来に対する希望とともに生きづらさを感じもがき苦しんでいる姿を目の当たりにしました。
能力があっても自信が持てずに行動できない若者、自分の可能性に蓋をして挑戦しない若者、とにかく社会に合わせよう、合わせようとする若者。
若者が若者らしく快活に希望を持って生きるのが難しい社会の姿があるのではないか?と考え、自身のキャリア教育のあり方にも疑問を感じるようになりました。


大学では初年次教育、キャリア教育、インターンシップ科目、産学協働教育を担当していますが、教えたいことを教えるのではなく、学生の状態をきっちり把握し相手に合わせた教育活動を心がけています。


学生の状態を把握するために3年前から「社会に出ていくことへの期待」と「自分に対する期待」の程度を聞く調査を行なっています。
その結果、約6割の学生が社会か自分かのどちらかに期待を持てておらず、約2割の学生が社会にも自分にも期待を持てていないことがわかりました。
社会にも自分にも期待している学生は2割ほどいるにはいますが、この割合の少なさと割合の構成が3年間おおむね変化していないことに社会の実情を垣間見たわけです。


多様で、変化が激しい社会だからこそ、そこで生きる若者の心は揺さぶられ、落ち着かないということを教育の側と社会がしっかり理解する必要があると考えています。
若者のキャリアに関わる大学教員として、教育研究を通じて社会にしっかり訴えていきたいと考えています。

研究者としてのこれまでのご経歴・キャリアパス

25歳のときに小さな私塾を開校し低学力層向けの学習塾を行っていました。資金繰りが厳しくなり塾は閉めましたが、30代ではキャリア教育を専門に行う教育NPOに勤めキャリア教育コーディネーターとして働き、学校へのキャリア教育支援や企業のプロジェクトに参画する「長期実践型インターンシップ」を企画運営していました。


NPOでキャリア教育コーディネーターとして働いていた頃、学ぶ必要性を感じたことをきっかけに大学院に進学しました。
大学院を終了後、自身のキャリアについて考えていたとき、私の経験が活かせそうな大学教員の公募を見つけることができ、38歳の時、縁あって今の大学に勤めることとなりました。
「地域社会の教育を担う」という使命感があり、大きな方向性としてはキャリア・デザインしていたかもしれませんが、実態はデザインというよりもドリフトしていたように思います。


「キャリアドリフト」は、我が国の経営学におけるキャリア理論の第一人者である金井壽宏先生が提唱したものですが、大きな方向性でキャリアを描きながらも、偶然の出来事や予期せぬ出来事を柔軟に受け入れる、あるいは身を委ねてみるというような意味です。
私にあっては、現在地もわからない海の上を彷徨いながら、たまたま来た波のうねりに乗ってみたら岸にたどり着いたというような印象です。


いつも目の前の仕事に手を抜かずにこだわり向き合ってきたつもりです。このような姿勢が功を奏したように思います。
「やるだけのことはやった。後は天明を待つのみ。」という心境です。

キャリア形成と意思決定に関する知見

人生の転機に直面する特に若い方にお伝えしたいと思うことは、よい意味で楽観的になるということかと思います。


私たち現役世代も含め、今を生きる青年の多くは「〇〇すべき」「〇〇であるべき」という思考に陥りやすいのではないかと考えています。
「学んだことを活かせる仕事に就かなければならない」とか、あるいは「こういうキャリアを歩むべき」などです。
しかし、「何を良いと思うか」、「何を正しいと思うか」というような個人の価値認識に関わるキャリアの問題に「あるべき論」は存在しないのではないでしょうか。


人生のターニングポイントで自身のキャリアを考える若者には、「〇〇すべき」「〇〇であるべき」ではなく、走っている状態から一歩立ち止まり、物事に対して「なぜ、なぜ?」と考え抜いてみて欲しいと思います。


どうしても私たちは社会との関係性の中で生きている社会的な存在ですから、理想と現実との間で迷い、もがくことになります。
そんなときには、「あるべき論」に縛られすぎず、物事を楽観視してみるのも一つの手だと考えています。


現状を打破し、新しいことを創造する際の思考法として「アブダクション」という思考法を紹介したいと思います。
「演繹法・帰納法」に次ぐ第3の思考法としてパースという論理学者・哲学者が提唱したものですが、既存の理論や規則などの前提からではなく、目の前にある結果から物事を推論していくという思考法です。
パースは「疑念が刺激となって信念に達しようとする奮闘努力が始まる…(中略)…疑念という刺激は奮闘努力の唯一直接的な動因である」と言いました。
つまり、素直な心の疑問に思いを至すことが新しいことを考えるきっかけになるということと理解してよいと考えています。

転職者・キャリア形成中の方へのアドバイス

転職の際には、過去・現在の自分を未来の自分の踏み台にするキャリア選択をぜひ考えて欲しいと思っています。


長い目でキャリアを重ねるには、連なりをいかに作るかが重要ではないでしょうか。
その連なりの積み重ねが10年、20年経った時に思いもよらない立派な経歴になっていることに気づくのだろうと思います。


特定の業界における特定の職種の仕事でも、その職種経験は他の業界でも十分に活かせるはずです。
キャリアは轍であり、足跡ですから「今の経験があるから、次の転職が叶った」というキャリアの重ね方です。
あるいは、特定の職種における特定の業界の仕事でも、その業界経験は、その業界の違う職種に就く十分な理由になると思います。


若いうちは力も経験も及ばずに苦しく歯がゆい思いをすることも多いと思いますが、広く社会を眺めてみるとこれほど若者が活躍しやすい社会もないと思います。
窮屈に凝り固まった社会は過ぎ去り、いまや新しいことを次から次へと生み出さなければ変化の多き時代にはついていけません。


若者が少なくなっているわけですから、一人ひとりが最大限に活躍してもらわないといけません
。
つまり、若い方々に頼らざるを得ない社会がもうすでに来ているのです。みなさんの時代です。
堂々と思い切り風を切って走っていただきたいと思います。


大阪国際大学の基本情報
名称 | 大阪国際大学 |
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所在地 | 〒570-8555 大阪府守口市藤田町6-21-57 |
大学HP | https://www.oiu.ac.jp/ | 今回インタビューにご協力いただいた先生 | 大阪国際大学 山本幸一先生(准教授) |