今回は順天堂大学で准教授を務める鎌田雅子先生に、「キャリアにおける意思決定と自己理解の重要性」についてインタビューをさせていただきました。キャリアデザイン、経営学、グローバル人材論、職業選択などをご専門とされている鎌田先生に、キャリアの転機における考え方や効果的な意思決定のプロセスについてお伺いしていきます。
研究分野とキャリア教育への取り組み
私の研究のベースとなる考え方は、経営学における人的資源管理です。
現在は、EBPM(Evidence Based Policy Making)の手法で、「組織(国・企業)と構成員(国民・従業員)のHappinessの両立」を軸に、少子化対策や労働供給の分析を行っています。具体的には、日本の地域ごとの少子化要因を、データという量的な指標と実態のインタビュー調査という質的な指標の両者の観点から分析し、人々(国民)の幸福と組織(国)の成長が真に両立する政策のあり方を模索しています。
大学で受け持っている科目やゼミは、経営学やキャリア理論をベースにした内容です。知識を単に伝えるだけでなく、学生一人ひとりが自分のキャリアをデザインできるよう、双方向の対話を大切にしながら、学生個人のHappinessの追求を目指し伴走しています。
大学生活は、安全な拠点を築き、そこから未知の世界へ一歩踏み出すための大切な準備期間です。正解のない問いが続く社会において、専門知識だけでなく、真に自律して生きる力を身につけてほしいと願っています。
これまでの研究で特に印象深かったのは、「幼保無償化の分析」です。分析の結果、この政策が若年単身世帯の出産意欲を減退させているという結果が示唆されました。
良かれと思った政策が、特定の層には逆効果となってしまう政策の難しさを、有意差という統計学上のデータで示しています。この成果は、通説や単純なデータを鵜呑みにせず、謙虚に立ち止まり探求する、という私の研究哲学を形作る重要な指針となりました。
研究者としてのこれまでのご経歴・キャリアパス

私の原点となっているのは、新卒から大学組織の運営や制度作り、マネジメントや労使交渉に携わる中で、「組織と個人のHappinessの両立」に関心を抱いたことです。転機は34歳の時、出産後初めて上司の勧めで参加した学会での出会いでした。
理論と実践を統合されている秦敬治先生(現倉敷芸術大学学長)に出会い、「教育を通じた社会貢献」という自身の志が明確になりました。その後、多くの先輩方や現在の指導教員である川崎一泰先生(中央大学総合政策研究科)との出会いを通じ、海外学会発表や助成金採択など、研究者として研鑽を積む機会をいただきました。
最も困難な決断は、42歳での研究者への転身でした。収入減や一般的にキャリアチェンジをするにしては遅いスタートへの不安、慣れ親しんだ大学運営業務への未練もありましたが、周囲の助言を得てライフワーク・ライクワーク・ライスワークのバランスを内省し、自らの志に従う道を選びました。
これまでの歩みを振り返ると、必要に応じて専門性を深化させることが大きな支えとなりました。たとえば、国家資格キャリアコンサルタントなど、社会的に信頼性の高い資格取得のための研鑽や、志を後押ししてくれる大学院での学びなどです。まさに、計画された偶発性理論を体現するように、目の前の課題に真摯に向き合い続けた結果が、現在の研究者としてのキャリアに繋がっていると考えています。
今後も領域に捉われず、志の実現に向けて歩み続けたいと思っています。
キャリア形成と意思決定に関する知見
現代社会は、終身雇用を前提とした日本的雇用慣行から、個人が自らの責任で仕事を選び取る、キャリア自律の時代へと転換してきています。この大きな変化の中で、後悔のないキャリアを築くためには、まず圧倒的な行動量が不可欠です。
仕事のみに没頭して視野が狭くなることを避け、多様な人々と出会い、未知の出来事を経験することで、初めて自分なりの比較軸を持つことができます。こうした多角的な視点こそが、変化の激しい市場における、エンプロイアビリティ(雇用され続ける能力)の土台となります。
キャリアの節目で行う自己分析においては、内的キャリアの確認を大切にしてください。年収や職位といった目に見える外的キャリアも自己実現の要素ではありますが、真の納得感は、仕事の意義ややりがいといった内的側面に宿ります。
転職者・キャリア形成中の方へのアドバイス

変化の激しい現代社会において、自分の満足できるキャリア(ここでは人生の意味)を構築するための第一歩はキャリアの棚卸しです。
年収や役職といった外的キャリアに目を奪われがちですが、真に自分に合った職場を見つけるためには、仕事の意義ややりがいといった内的キャリアを見つめ直すことが不可欠です。自分はどんなことを大切にしていて、何に価値をおいているのか、という自分軸を再確認することから、すべては始まります。
キャリアの転機には不安や迷いがつきものですが、その際は思考を可視化するために書き出してみることをお勧めします。客観的な対話相手としてAIを活用するのも有効な手段の一つですし、思い切って外の世界へ出かけ、多様な価値観に触れることで視界が開けることもあります。
これからの時代を生きる若い世代の皆さんに伝えたいのは、クランボルツ教授が提唱したプランド・ハップンスタンス(計画的偶発性)の考え方です。キャリアの8割は予期せぬ出来事によって決まりますが、好奇心を持って行動し続けることで、その偶然は最高のチャンスへと変わります。
変化を恐れず、ポジティブな姿勢で未知の経験を積み重ねてください。その一歩一歩が、あなただけの満足のいくキャリア(人生)を形作っていくはずです。
順天堂大学の基本情報
| 名称 | 順天堂大学 |
|---|---|
| 所在地 | 〒113-8421 東京都文京区本郷2丁目1番1号 |
| 大学HP | https://www.juntendo.ac.jp/ |
| 今回インタビューにご協力いただいた先生 | 順天堂大学 鎌田雅子先生(准教授) |


