今回は東北福祉大学で准教授を務める上村裕樹先生に、「キャリアにおける意思決定と自己理解の重要性」についてインタビューをさせていただきました。保育者の養成を担当している上村先生に、キャリアの転機における考え方や効果的な意思決定のプロセスについてお伺いしていきます。
現在の研究されている分野・具体的なご活動内容について
これまでの研究では、保育現場の記録を基に、対話を通じた振り返りが保育実践の向上に繋がるというメカニズムを追求してきました。
特に近年は、保育施設に深く入り込み、対話を中心とした研修を継続的に実施する”伴走型コンサルティング”を通じて、その効果を実証しています。
例えば、AIを用いた保育記録の分析支援や、ICTを活用した保護者との連携強化などです。保育者の業務負担を軽減し、子どもと向き合う時間を創出することで、保育者の専門性向上と保育の質向上を目指しています。
大学の授業では、保育について深く学びあうと共に、最先端の研究成果を学生にフィードバックし、ICTやAIがもたらす保育の可能性や倫理的な側面についても深く議論しています。
私たち大学教員は、自身の研究成果が学生の教育に往還的・機能的に活かされることを重視しています。
研究の社会貢献としては、開発したシステムや研修プログラムを実際に保育現場に導入し、その効果を検証することで、地域社会の保育力向上にも貢献しています。
今後の注目テーマは、生成AIを活用した保育計画の自動生成支援やVR/AR技術を用いた保育者育成シミュレーションです。
これらを通じて、「学び続ける保育者の育成と養成」という、大学における私の大きな役割を果たすべく、日々研究と教育に邁進しています。
研究者としてのこれまでのご経歴・キャリアパス

私の研究者としての道のりは、大学時代から大学院で高齢者福祉を中心とした社会福祉理論の研究に注力したことから始まりました。
そして、大学院修了後、「保育者養成」の短期大学に社会福祉関連科目を教える教員として就職したことが、私のキャリアの大きな転換点です。
ここで初めて、子どもの未来を育む保育者を育てる「保育者養成」に出会いました。
「保育者養成」の仕事に出会って以来、青森県、北海道、そして宮城県と、北日本を中心に4つの大学で養成教育に携わってきており、それぞれの大学への異動は難しい決断を伴いました。しかしながら、“自分の研究を深めていきたい”という強い思いをもとに選択していました。
研究を進めていくうえで、目の前にある教育現場の課題をテーマとして改善策を模索するため、それが全く新しい研究領域であっても積極的に研究領域や方法を拡げていこうと取り組む姿勢を大切にしていました。
他大学の研究者や保育施設、さらには企業とも協力しながら研究活動を進めることで、常に現場のニーズに応え、実践に繋がる研究を追求することができました。また、社会福祉学で培った視点を基盤に、変化を恐れずに新たな学びを取り入れ、社会貢献へと繋げていくという一連のプロセスが、研究者としての成長に不可欠でした。
現在は、教育や保育分野において、ICTやAIを駆使し、保育現場の保育力向上や保育の質向上を目指す研究に注力しています。
他大学の研究者や保育施設、さらには企業とも協力しながら研究活動を進め、その成果は、先述したように保育者の養成と現職の保育者の育成に活かされてきました。
常に現場のニーズに応え、実践に繋がる研究を追求することで、自身の使命を果たすべく取り組む仕事に出会えたのだと思います。
キャリア形成と意思決定に関する知見

キャリアの節目における効果的な意思決定は、個人の成長と自分自身の幸福感に不可欠であるように思います。私自身の経験からも、これは常に困難を伴いますが、自分自身と対話し、自己分析を深めることが重要ではないでしょうか。
私が重視してきたのは、単に興味やスキルというものだけでなく「最も大切にしたい価値」や「課題解決への貢献に対する熱量」を考えてみることだと思います。
これは、社会福祉の研究から保育者養成へとキャリアを転換し、大学の中で研究と教育を深めてきた中での私自身の意思決定の根幹にありました。
転職を考える際には、目先の条件だけでなく、その環境で自身の専門性や研究テーマがどれだけ深掘りできるか、そして社会への貢献に繋がるかという視点を大切にしています。
私の場合、目の前の保育現場の課題解決、つまり「保育者の保育力向上と保育の質向上」という新たなテーマに挑むために、異なる大学への異動を決断してきました。
現代社会では、テクノロジーの進化と共にキャリアパスは多様化しており、常に学び続けることが求められています。
これは、私が現在取り組むICTやAIを活用した保育分野の研究と重なります。私の専門領域である社会福祉や保育学の知見は、「伴走型コンサルティング」として保育現場に入り、対話を通じて課題を特定し、AIやICTを具体的な解決策の一つとして提案するアプローチに活かされています。
結局のところ、キャリア選択における意思決定は、自己理解を深め、自身の価値観と情熱に合致するかを見極め、変化を恐れずに新たな学びを取り入れ、社会貢献へと繋げていくという一連のプロセスであると考えます。
転職者・キャリア形成中の方へのアドバイス

キャリアの転機に直面したら、「なぜ、私は今、変化を求めているのか?」を徹底的に自己分析してみましょう。単に「今の職場が嫌だから」ではなく、「何に魅力を感じており、何を成し遂げたいのか」という根源的な価値への問いや、「どのような課題解決に情熱を傾けていきたいか」を明確にすることが、後悔のない意思決定へと繋がるように思います。
私自身、保育者養成研究をライフワークとしているのも、目の前の教育現場の課題解決にこそ自身の情熱を注ぎたいという思いからでした。
現在は変化が激しく、キャリアは従来のように直線的なものではなく、常に変化し動いていくように思います。そのため、いくつかの視点を持って考えて見ることが大切ではないでしょうか。
職種や業種の垣根が低くなり、新しい技術や知識が次々と生まれてくる現在において、その環境に適応して学び続けようとする姿勢が重要であると思います。
私が現在、ICTやAIを駆使して保育の質向上を目指しているように、未知の領域にも臆することなく飛び込み、学び続ける姿勢が不可欠です。自分に合った仕事や職場を見つけるアプローチとして、完璧な条件が揃うのを待つのではなく、「この環境で、何を学び、どう貢献できるか」という視点を持つことが、長期的なキャリア構築においては重要であると思います。
キャリアの転機には、不安や迷いがつきものですが、それは必ずしも悪いことではないということです。むしろ、自分と向き合い、未来を真剣に考えている証拠であると思います。
経験上、新しい環境への挑戦は常に困難を伴いますが、そのたびに新たな知見や協力者との出会いがあり、自身の研究と教育の幅を広げることができてきたように思います。そうした不安や迷いを、自己成長の機会と捉える柔軟な思考が、これからの時代を生き抜く上で強みになります。
一人で抱え込まず、信頼できる「伴走者」を見つけていけると良いですね。それは、キャリアコンサルタントかもしれませんし、メンターや尊敬できる先輩、あるいは共に学ぶ仲間かもしれません。
私が保育現場で「伴走型コンサルティング」を実践しているように、対話を通じて自身の思考を整理し、客観的な視点を得ることで、より良い選択へと繋がります。
若い世代の皆さんには、「変わり続けることを恐れず、常に自身の『なぜ?』を問い続け、学びを楽しみながら社会に貢献していくこと」を心から願っています。
東北福祉大学の基本情報
| 名称 | 東北福祉大学 |
|---|---|
| 所在地 | 〒981-8522 宮城県仙台市青葉区国見1−8−1 |
| 大学HP | https://www.tfu.ac.jp/ | 今回インタビューにご協力いただいた先生 | 東北福祉大学 上村裕樹先生(准教授) |


