今回は園田学園大学で准教授を務める中井咲貴子先生に、「キャリアにおける意思決定と自己理解の重要性」についてお話を伺いました。キャリアデザインや教育経営学を中心に研究を行っている中井先生に、キャリアの転機における考え方や効果的な意思決定のプロセスについてインタビューしました。
現在の研究されている分野・具体的なご活動内容について
キャリアデザイン学では、とくに女子に特化したキャリア教育がその後のキャリアに与える影響に着目しています。
教育経営学では、学校組織開発モデルの構築と検証を行っています。
大学での学びが、将来のキャリアにどのようにつながっているのかを理解する「キャリアデザイン」などの座学と、「地域インターンシップ」を通じて実社会に出て経験値を高める実習の両方を担当しています。
学力中位層の高校の探究学習の現状をたくさん調査させていただき、近年注目されている探究学習が生徒にも先生にも、「問い」に対する答えを考え抜く力の育成につながるということがわかった点です。大きな発見であり成果だと考えています。
漠然と自分の人生に不安を抱いているすべての人に、ありたい自分の未来を描く楽しさを感じてもらえたらいいなと思って研究を続けています。
クランボルツの計画的偶発性理論は、自分の望むキャリアが見つからない「キャリア迷子」の人にぜひ知ってほしい考え方です。この理論によると、人のキャリアの8割は偶然で決まるので、偶然の出来事をいかに意味ある計画的偶発にするかがポイントになります。
自分の身の回りに起こる数々の偶然を、「流してしまわずに拾い上げる」ちょっとした心がけで、キャリアの選択肢はぐっと広がるのだとしたら、自分にもできそうだと思えるのではないでしょうか。
研究者としてのこれまでのご経歴・キャリアパス
大学卒業後、高校教員としてのキャリアを20年以上歩んでいました。やりがいのある自分に合った仕事でしたが、偶然「キャリア教育」という当時は未知の分野の学びに出会ったことにより、学生から社会人へと大きくキャリアを転換させる時期の大学生に、自分の未来を切り開く力を身につけて欲しいと考えるようになりました。そこで、大学院での学び直しを決意して大学教員に転職しました。
「キャリア教育」というどの学問分野にも属さない横断的、包括的な学びについて深く知りたいと思ったことが、研究者への道に足を踏み入れたきっかけです。私はキャリア教育を組織開発の手段として活用したいと考えていました。そのため、それを可能にする組織開発論として、ピーター・センゲの「学習する組織論」に大きな影響を受けました。
高校教員だった頃、出産と育児でキャリアを中断することへの不安がありました。しかし、先輩の先生に「誰もが通る道だから順番にフォローしていけばいい」と声をかけていただき、気持ちがずいぶん楽になりました。その時の言葉を思い出し、後輩の先生が出産や育児を経験する時には自分が全力でフォローするようにしていました。
高校教員として学校組織改革に関わった経験のおかげで、さまざまな学校の先生や生徒に研究対象者として協力いただくことができました。インタビュー調査なども、同じ立場を経験しているということが役に立つ場面は多いです。
教員を志して大学進学したわけではありませんでしたが、教員志望の仲間に囲まれた環境で大学生活を送ったことが、結果的に自分のキャリア選択のきっかけになりました。自分の所属する組織の環境の影響は大きいと思います。
キャリア形成と意思決定に関する知見
キャリア形成にかかわる意思決定の際には、自分の内的キャリアであるキャリアアンカーを優先すると、後でやっぱり何か違うと感じたり、離職や転職を繰り返したりすることが少なくなります。キャリアアンカーは、これだけは譲れないという自分の価値観の軸です。
アンカーに沿ったなりたい自分の姿(目的)を「○○な自分」と言語化し、それを叶えるために具体的に必要なこと(目標)へとスケールダウンしていくことでブレない意思決定ができます。
自己分析は自分のプロファイリングですが、自分で自分を正確にプロファイリングするのは難しいので、周りの人から自分がどう見えているのか、他人から見た自分を知ることが必要だと思います。
転職先になりたい自分の姿がイメージできるかどうかが判断基準になります。イメージできるならプラスの転職だと考えていいと思います。
メンバーシップ型からジョブ型に雇用形態が変わり、個人のキャリア形成はジョブを磨くことが今まで以上に重要になってきます。また、終身雇用制の崩壊により、キャリアチェンジや複線型キャリアを前提としたキャリア形成が当たり前になっていきます。
キャリア教育のあり方も、こうした社会の変化に対応してアップデートしていく必要があります。
選択肢は職業名や会社名といった外的キャリアに即したものよりも、自分の大切にしたい価値観などの内的キャリアに即したものをピックアップする方が、ミスマッチが防げると思います。
転職者・キャリア形成中の方へのアドバイス
人生100年時代のキャリアにおいて、転職は当然起こり得る転機です。転職後の自分の姿をイメージしてみて、「なりたい自分」になれている姿が見えるなら、プラスの転職だと捉えていいと思います。
長い人生の中で、どのあたりでキャリアの転機が訪れるのかをあらかじめ知っておくことは、焦りや不安を減らすことにつながります。合わせて、キャリアは変化するものだという前提で考えておくことも大切かもしれません。
適職や天職といわれる特別な職業が存在するわけではなく、天職は好きなことの中にあります。たとえば、他人にはきつく見える努力が自分にはあまり辛くないような好きなこと、楽にできるわけではないが苦にならないこと、などが自分に合った仕事だといえます。
同じような転機を迎えた人生のロールモデルを見つけることが良いと思います。不安や迷いは進む道が霧に覆われていて見えないことで生まれるので、道しるべとなる存在を見つけると霧が晴れることが多いです。
会社がキャリアを決めてくれない時代、社会がレールを敷いてくれない時代、そんな不確実な時代を生きる皆さんは、逆に枠にとらわれずに生きることができます。自分の価値観を大切にして、社会の変化を見ながら柔軟にキャリアを変化させていってほしいなと思います。
園田学園大学の基本情報
今回インタビューにご協力いただいた先生は、園田学園大学で准教授を務められている中井咲貴子先生です。
| 名称 | 園田学園大学 |
|---|---|
| 所在地 | 〒661-8520 兵庫県尼崎市南塚口町7丁目29-1 |
| 大学HP | https://www.sonoda-u.ac.jp/ |


