株式会社SCHAFTとは?
SCHAFTは東京大学の中西雄飛、浦田順一両氏が2012年5月に設立しました。
二人は東京大学大学院情報理工学研究科情報システム工学研究室の稲葉雅幸教授のもとで骨格型ヒューマノイドの研究を10年以上続けており、2007年には身長140cm,体重45kgの「小次郎」を、2010年には上半身のみですが、筋骨格を備えた「腱臓」を開発しました。
中西、浦田は2011年末ごろからヒューマノイドの具体的な商業化の検討を開始します。そんな中2012年4月 アメリカ国防高等研究計画局(DARPA)がロボットコンテスト(DRC)の開催が発表されました。
二人は自分たちが目指すロボットの開発のためこのコンテストの参加を大学に相談しましたが、大学側は軍事目的に転用可能な技術開発をする組織からの資金提供を受けることを禁止しており、この立場の違いから二人は大学を辞めることを決意しました。そして2012年5月、株式会社SCHAFTが設立されたのです。
2012年12月に開催されたDRC決勝では、災害現場を想定して使用されることを目的に課せられた8つのタスク(1.車の運転と下車,2.起伏の激しい道の歩行,3.通路にある障害物の除去,4.ドアを開ける,5.はしごを上る,6.工具を使って壁を打ち破る,7.消火用のホースを運んでパイプにつなぐ,8.漏れているバルブを見つけて閉める)を次々とこなし、32点満点中27点と言う高得点でNASAやMITを抑え1位になり世界の注目の的になったのです。
Googleがロボットへ参入した理由は?
Google社はデータを扱う企業です。今後10年単位で行われる革新的な事業、例えば宇宙開発、工業生産プロセス、精緻な地図データの取得などにはロボットが主導すると予測されています。
人間の生活はロボットのセンサーによって実際に出向くことなく遠くの知識を得ることができたり、人間の持っている感覚を劇的に延伸させることも可能です。精巧な二足歩行のロボットであれば困難な地形にも入り込んで地図データを取得することが可能になります。人間の生活にロボットが入り込めば入り込むほどGoogle社はより多くの貴重なデータを入手できます。
そしてすでに多くの企業がロボット産業に参入している実情がある中、ここでのロボットへの出資の出遅れは今後何十年もの損失につながりかねないのです。
Googleはモバイル産業でandroid 社を買収、その後7000万人ものユーザーを得てモバイル市場の制覇を果たしています。これは当時多くの専門家が「無意味だ」と批評しました。しかし今回のロボット産業への投資も同じことが言えます。
Google社はすでに7社のロボット開発事業を買収しています。
アナリストの分析によると今後数年以内にGoogleが買収したBoston Dynamicsは50億ドル企業に成長すると予測、今回の買収に関連したロボティクス企業すべてにその程度の成長可能性があるとみられています。Googleの無尽蔵な資金力はすでにもっている巨大なマーケット、個人消費者から産業向けまであらゆる市場へのビジネスチャンスにつながる可能性があるのです。
買収の裏側とは?
今回のGoogleとSCHAFTを結びつけたキーパーソンは加藤崇氏です。
加藤氏は早稲田大学理工学部 応用物理学科卒業後、三菱東京銀行、技術系ベンチャー企業社長、オーストラリア国立大学でMBAを取得、レックスホールディング執行役員などの経歴の後2011年からSCHAFTと関わり、会社設立時には共同創業者兼取締役CFOに就任したのです。
加藤氏は資金調達を担当しておりましたが、国内では市場も整っていないロボットの商業化に対しては「おもしろい」と言う反応はあっても、実際の出資には至りませんでした。結果、開発費用の大部分を加藤氏の関係する投資ファンドからの資金調達、 DARPAの開発資金を得てからも商業化に必要な数千万以上の巨額資金の収集に専心したものの日本での資金調達は難航していました。
資金調達活動の中の人脈でGoogle社とのつながりができ、 DRCの実績にGoogle側が興味を持ったこともあり、2013年7月、androidを開発したルービン氏にSCHAFTはロボット技術のデモンストレーションを行うチャンスを得ました。
デモンストレーションからなんと4時間後にはルービン氏から買収の提案、そしてSCHAFTメンバーはその場で30分ほど話し合いGoogle社の提案を受けることになりました。2社の合意から4か月後には加藤氏を中心にM&Aが取りまとめられるというスピード買収になったのです。
Googleへの売却目的は投資家へのリターンはもちろんですが、中西さん、浦田さんへロボット開発に没頭できる研究環境を整えるためです。
SHAFT設立から1年間の日本での資金調達、官制ファンド、中央官庁への働きかけすべてで難航、結果に結びつかなかったことで、日本国内で中西・浦田氏の夢をかなえることは無理だと判断しました。
日本では技術そのものに投資をする環境が整っておらず、欧米で成功したビジネスモデルに投資それを日本のマーケットでコピーをすることで利益を得ようという考えが中心です。
一方アメリカでは国全体で新しい産業起そうという風潮があります。新しい産業で世界に先駆することが国の利益につながるからです。
今後も技術に投資をするという環境が国内で整わなければ、日本で先進的な技術開発をしているバーチャルリアリティ、マテリアルなどの分野が海外へ技術流出する流れは止めることはできないのです。