今回は大手前大学の吉川正剛先生に、「キャリアにおける意思決定と自己理解の重要性」についてインタビューをさせていただきました。キャリア教育がご専門で教育学・教育心理学に携わる吉川先生に、「キャリアの転機における考え方や効果的な意思決定のプロセス」についてお伺いしていきます。
現在研究されている分野・具体的なご活動内容について

私は大学のキャリア教育及びキャリア支援に携わっています。


私はキャリア教育専門教員として、大学のキャリア教育及びキャリア支援にかかわっています。
2025年度から大手前大学のキャリア教育が刷新されることから、昨今のキャリアを取り巻く環境を踏まえて、4年間を見据えたカリキュラムと授業の開発・改変に取り組んでいます。


昨今のキャリア理論は、人生100年時代を生きる私たちが「何が起こるかわからない人生をいかに生き抜き、いかに人生をエンジョイするのか」に焦点が当たっています。柔軟に変化に対応していくことで、心理的成功を目指すことがこれからのキャリア形成には重要になるということです。


心理的成功を目指すとは、人が自分の才能や想いを活かしながら働き、人生の充実感や満足感を得ているといった状態を目指すということです。


最近、研究テーマとして関心があるのは、パウル・ティリッヒの「生きる勇気」論と、それに基づいたBeingを培うキャリア教育プログラムの開発、キャリアカウンセリングのプロセスを図示したキャリアコンサルタントの資質・技能向上に関する研究です。
発展途上のキャリアコンサルティングが社会の重要なインフラストラクチャーとして定着するように、キャリアコンサルタントの資質・技能の向上に努めたいと思っています。


キャリアカウンセリングや教育分野のカウンセリングを研鑽し、普及させることをライフワークとし、キャリアコンサルタントの更新講習などの社会活動に取り組んでいます。

研究者としてのこれまでのご経歴・キャリアパス

修士課程に進んだものの、さまざまな事情により研究からは離れていました。そんな中転機となったのは、大学で就職支援の部門に配属されたことでした。
ここで学生とかかわっているうちに、「キャリア支援やキャリア教育に関わる仕事」を一生の仕事にしたいと思うようになりました。


研究に携われるような仕事に就きたいと思ったきっかけは、学習塾で専任講師として働いていた頃、工学的なアプローチで教育評価を行う「S-P表」の開発者、佐藤隆博氏の話を聞いたことです。
もともと教育評価に関心がありましたが、教育者の勘や経験に頼らない手法に惹かれ、授業や進路指導を「科学的」に実践する何かを開発したいと思いました。その後、さまざまな事情があり研究から離れることとなりましたが。


私個人の体験から、転職やキャリアチェンジが頭をよぎったときには、自分の軸をしっかりと見つめ直すことがおすすめです。軸が曖昧なまま焦って動くよりも、今目の前のことに手を抜かずに取り組みながら「時期を待つ」といった姿勢でいる方が良いこともあります。


キャリアコンサルタントの資格の取得や、福島県の国立大学にキャリアセンターが設置されてご縁をいただけたこと、そのあと元の職場から声をかけていただいたことで今に至ります。
私の研究者としての本格的なキャリアは、むしろこれからと考えています。


私の場合、もともと教育評価に関心があり修士課程に進みました。実際に、一生の仕事にしたいと思える職種に出会えたのは、大学で就活支援の部門に配属されたことが大きなきっかけとなっています。
キャリアパスでの気づきは、自分の人生の軸はぶれないようにしっかりと持ちつつ、変化に柔軟に対応することが大切だということでしょうか。

キャリア形成と意思決定に関する知見

私が重要だと考えている要素は、「3つの勇気」を持つことです。まず、欠点も含めた自分自身を受け入れる勇気、次に自分の軸をしっかり持ち、必要に応じて自分を打ち出す勇気。最後に今の環境や新しい環境に積極的に関わりながら自分の居場所を切り拓く勇気です。
この勇気(生きる勇気)が、キャリアにおける意思決定の土台になり、この勇気をもって自分の人生の問題や社会問題(イシュー)に立ち向かうことで、キャリア形成はされていくものだと考えています。


人生の軸はぶらさないようにしっかり持ちつつ、「自分の才能や想いを活かして充実感や満足感を得ることを目指す」このことが、これからのキャリア形成にとって重要になってきているのです。


現代社会は変化が激しく、自分がデザインした通りの人生を送ることが難しくなっています。
そのため、自身の人生の軸を持ちつつ適応していくことが今後はより必要になってくると考えています。


「生きる勇気」論からすると、何が起こるかわからない人生をいかに生き抜き、いかにエンジョイするのかを考え、勇気を持って自身の人生の問題や社会の問題に立ち向かうことを意識してキャリア形成すると良いでしょう。

転職者・キャリア形成中の方へのアドバイス

まずは自分の軸をしっかり見つめなおしておくことをお勧めしたいです。
そのうえで、目の前のことに手を抜かずに取り組み、与えられた新しい機会にも挑戦していく、といった柔軟な姿勢が持てるといいですね。


変化の激しい現代社会では、自分が思い描いた通りの人生を送ることが難しくなっています。昨今のキャリア理論では、何が起こるかわからない人生をいかに生き抜き、楽しむのか(Enjoy&Survive)に焦点が当たってきています。自身の軸をぶらさずに、人生の充実感や満足感を目指すことが、キャリア形成に重要になっているのです。


予備校講師・タレントとして活躍している林修氏は、基本的にオファーされた仕事を断らないそうです。「その仕事をオファーする人は、自分にその仕事がやれる何かを感じて自分に依頼してきたのだから…」ということだそうです。
林先生の例のように、与えられた機会に挑戦していくことでも、キャリアは良い方向に向かうという考えも実際にキャリア理論にはあります。。


自分の軸をしっかりと持って、不安や迷いに対処してほしいと思います。入社して、「希望の部署に配属されなかったから」という理由で、すぐに転職を考えるのも、自分のキャリアにとって大きなチャンスが転がっているのに、そこに向かう一歩が踏み出せないというのも、どちらももったいないです。
自分の軸をもとに、目の前のことに手を抜かず好機を待つという姿勢が良いのではないでしょうか。


近年は、社会の変化が激しくなり、自分がデザインした通りの人生を送ることが難しくなってきました。
自分の軸をしっかりと持ち、与えられた機会を試して学習し、より良いキャリアを築くためのチャンスに変えていきましょう。
このインタビューを読んでくれた皆さんが、幸せなキャリアを築いていかれることを願っています。


大手前大学の基本情報
名称 | 大手前大学 |
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所在地 | さくら夙川キャンパス:〒662-8552 兵庫県西宮市御茶家所町6-42 大阪大手前キャンパス:〒540-0008 大阪市中央区大手前2-1-88 |
大学HP | https://www.otemae.ac.jp/ |
今回インタビューにご協力いただいた先生 | 大手前大学 吉川正剛先生(助教) |