今回は札幌大谷大学で講師を務める石井誠先生に、「キャリアにおける意思決定と自己理解の重要性」についてインタビューをさせていただきました。ソーシャルデザイン、プロジェクトマネジメントを担当している石井先生に、キャリアの転機における考え方や効果的な意思決定のプロセスについてお伺いします。
現在研究されている分野・具体的なご活動内容について
研究テーマは「思考と実践のズレの理論化」です。学際的、というよりは新しい分野を作りたいと思っています。
「私は何者か、何を表現するのか」その問いをもって制作者としてアートに関わり、その後はデザインやまちづくりという軸で企業、省庁、地方行政の方々と一緒にPM(プロジェクトマネージャー)としてプロジェクトを推進してきました。経験の中で見えてきたのが、 「理論や計画」と「実践」の間に生まれるズレです。それはポジティブなものであると私は思っています。
所属している札幌大谷大学は来年から札幌芸術大学へと改編される予定です。そこでは「問い」を形にして考える授業をしていきます。
「デザイン」は広い対象を扱うので、対象を自分で定義する姿勢が大事です。これはキャリアも同じだと思います。
キャリアの語源は誰かの作った「轍」を走る「荷車」だと聞いたことがあります。他人の作った道で、汎用的なタイヤがあれば安心でしょうか?私はそうは思いません。
汎用的なものは便利ですが、悪路や水路を必ず通らなくてはいけない時、どう通るか?ちょっと普通と違う形のタイヤ、たとえばデザインというタイヤが、効いたりします。そこで人生の旅を諦めたりしないために「現実をどう見るか」「そこで自分が何をするのか」の幅がデザインを学ぶと広がると思っています。
キャリアの意思決定・自分自身との向き合い方

大きく3つありますが2つ話します。前職のデザイン会社で「ゴールや目的」を意識するようになったこと。もうひとつはPM時代、「なぜ人に決断まで任せるのか」と感じる場面が何度もあり、その構造を知りたくて今教員をやっています。
一番は、制作者だった時期です。「何をしたいのか、何をつくればいいのかわからない」状態でした。アートはいままでにないもの、誰もやらないものをやらなくてはならない、と感じていて、それが自分の中には無いように感じてしまった。
PMの時は、最初はそもそも「PMが何のためにいるのか」がわからず、次に「自分の権限や裁量はどこまでか」がわからない、ということがたまにありました。職能や役割そのものが見えなかったんですね。
でもイメージができてくると、自分なりのPM像が作れて、そこからは楽しめるようになりました。でも仕事は基本、納期があるのでやれば終わります。
教員になってからは、コロナ禍に学生時代を過ごしたという、自分が経験していない経験を持つ学生たちと向き合っています。彼らの環境や構造は、わかろうとしてもきっとわかりきれない。それを前提として、対話しながら一緒にいい形を探していきたいと思っています。
職業選択・キャリア形成について

大きなことを構える必要はありません。何かつくって発信する、つくっている人のイベントに参加する。まずはそこからで十分です。
アートは「よくわからないもの」であり続けていいと思っています。逆に私にとって工学や化学もそうです(笑)。大事なのは「リスペクト」。わかり合えなくても、リスペクトはできる。
ただ前提として「知る」機会は必要です。日本は海外に比べ、制度を構築する職に就いたり企業の幹部になるような教育の最高峰を経た方々がアートに触れる機会が圧倒的に少ない。法制度以前に「知る仕掛け」が場にないという話です。エンジニアや若手の方は、街中のアートやエンジニア自身が関わるアートも増えているので、身近な人を誘って行ってみるのもおすすめです。
プロジェクトを動かす経験は、何の仕事をやるにしても「自分でやった経験」として大きな価値があります。本で読んだり話を聞いたりするのとは違って、実際にその環境、その場に身を置くことで、はじめて気づくことがある。うまくいかないし、つらい、しんどい、苦しい、誰も助けてくれない。いい環境です。そこでは決断まで人に委ねてしまう構造から抜け出すための、いい訓練になるはずです。
学生や若手の方に伝えたいのは、シンプルに二つです。逃げないでやりきってみること。
そして、つらい時には周りに「俺、つらいんだ」と言えたり、表現できることです。
先生の専門的視点からのメッセージ

社会人になる人にも、私自身を振り返っても難しいことだと思いますが、企業の中にいると「誰かが決めたことを引き継いでやる」場面があり、それでいて「自分ごとでやれ」と言われたりします。おかしくない?と思うのですが、そうなる構造があって、仕事だしやらねば、と自分を騙してやるのもひとつの手です。
でも、そればかりだと人生が楽しくなくなるので、ひとつだけお伝えさせてください。何かを人に期待されたとき、「やる」「やらない」の二択で即答するのではなく、「1分、時間をください」と言ってから決める。そんな小さなことが、とても大事だと思っています。その1分で、自分はそれをやりたいのか、なぜやるのか、誰のためなのか、その期待自体がどこから来ているのかを少しだけ自分で考える。即答でも放棄でもなく、自分のための間を持つ。それが、自分の人生の決断を他人に預けないための、いちばん小さな一歩です。
このメディアを運営されているシンクトワイスさんの社名は相手の想像を超えるために「二度考えよ」からきているそうですね。僕は一度は考えるのですが、1分あれば二度、考えられそうですね。
走り続けることも、立ち止まることも、複数の軸を持って道を選ぶことも、すべて「自分で決めた」と納得できる。そんな人ばかりになれば社会課題の半分は解決しそうだなと楽観的に思いつつ、私のように楽観的でない人のおかげで社会の構造が守られているのだろう、とも逆説的に思います。
「キャリア」を築こうとする人や、それを応援する人たちは、私のような人間のキャリアも肯定してくれる人たちだと思います。この場を借りて、ありがとうございます。
札幌大谷大学の基本情報
| 名称 | 札幌大谷大学 |
|---|---|
| 所在地 | 〒065-8567 札幌市東区北16条東9丁目1番1号 |
| 大学HP | https://www.sapporo-otani.ac.jp/ |
| 今回インタビューにご協力いただいた先生 | 石井誠先生(講師) |


