今回は山陽学園大学・山陽学園短期大学で教授を務める神戸康弘先生に、「キャリアにおける意思決定と自己理解の重要性」についてインタビューをさせていただきました。ビジネス心理学や経営学・商学に携わる神戸先生に、キャリアの転機における考え方や効果的な意思決定のプロセスについてお伺いしていきます。
目次
現在研究されている分野・具体的なご活動内容について

現在の研究内容はキャリア研究です。教育活動では、ビジネス心理学科の学科長をしており、ビジネスの中の心理学に関心があります。


授業ではキャリア学概論やビジネス実務論、企業と一緒に行うPBL(課題解決)型授業などを教えています。
ゼミでは市のイベント企画に参画するなど実践的なことをしています。


これまでの研究でとくに印象に残っているのはやはり博士論文です。キャリア論の第一人者である神戸大学の金井壽宏先生に従事し、「意味のマップ」に着目した研究をしました。
「意味のマップ」とは、キャリアを歩むうえで、どこに「意味」が隠されているのかをマップ上に表したものです。
ウーマンオブザイヤーの受賞者たちにインタビューを行なって、どこに「意味」を感じキャリアを歩んだのか、その道筋を明らかにしました。その成果を、『「意味マップ」のキャリア分析(白桃書房)』という本にまとめています。


最近注目しているのは「行動経済学」でしょうか。Google、Appleなどアメリカ最先端企業で専門家の争奪戦が起きているようでキャリアのトレンドになりそう。
また、東大生の就職先人気がコンサルばかりという点も注目しており、コンサル志向はキャリアにどう影響するのか興味を持っています。


ウーマンオブザイヤー受賞者の彼女たちが、どのようなことに「意味」を感じキャリアを歩んだのか、その道筋を明らかにした『「意味マップ」のキャリア分析(白桃書房)』という本を出版しています。「意味マップ分析」は現在のキャリアを歩む人にとても参考になるはずです。

研究者としてのこれまでのご経歴・キャリアパス

最初の転機は浪人時代です。『英文解釈教室』という本に出会い、雲の上の存在だった早稲田大学に思いがけず合格、これが人生最初の転機。というのも、これがなければ大学教授にはなっていないはず。
就職では、「お金持ちになりたい」という理由から証券会社や広告代理店に就職したものの、「一生株を売ったり、買ったりするだけの人生でいいのか?」と思い悩み、広告代理店ではクリエイティブな仕事ではなく営業で外回りの仕事が多く「何か違う」という違和感に日々悩んでいました。
そこで思ったのが「自分は何を売れるのだろう」ということ。人は、自分の何を買ってくれるのか、を考えるようになりました。


大学教員人生がスタートしたきっかけは、「自分が売れるもの」について考えていたとき、ふと入った書店で「こうすれば早慶に受かる」といった本が並んでるのを目にしたこと。「早稲田大学に合格する方法なら教えられる、買いたい人がいるかも?」と思いつき、本を出版したいと考えました。
しかし、サラリーマンが出版できるわけもなく、「じゃあどうしよう?」と考えた末、予備校講師に転職。念願叶って本を出版することができました。
ですがその後、「社会を変えるには大学教授として本を出さないとだめだ」と思い、大学教授を目指します。


『大学教授になる方法』(鷲田小彌太)という本を参考に、大学院に行くことにしました。母校の大学院に合格するため猛勉強して修士課程に合格。
その後、博士課程にも進むことができ、指導教授から今の大学を紹介頂き大学教員人生がスタートした、というのが研究者になるまでの経緯になります。


決断といえば、高校時代に理系か文系かで悩んだことがあります。
母方が医者系だったために医学部を受けるかどうか…ただ、どう考えても自分は文系タイプだったのでどうしようか悩みました。結果、医者になろうと決断して数学など理系の勉強を始めたものの、全くついていけず文系に。
この体験から「行動してみる」ということが重要だと気づきました。


ただ悩んでいても結論は出ないので、少し始めてみると「Bは向いていない」などの事実に気づくはず。
「悩む時間があったらまずは行動」ですね。結局自分は何をしたいのかこれまでに迷った時はいつも「心の声」を聞くようにしています。
私はよく、週末の午前中にはお気に入りのカフェに行って「一人作戦会議」を開いていました。そこで、これからの人生何をしたいかを紙に書き出すのです。「人生は未来に起こってほしいワクワクすることを実現するためにある」という言葉に出会ってからは「本を出版する」など自分がワクワクする未来を書き出していましたよ。


はい。続きのエピソードがあるのですが、「面接の達人」で有名な中谷彰宏さんの自己啓発本に影響を受けて、10年日記の2年後ぐらいの適当な日付に「今日、初めての本が発売され書店に見に行く」と書いておいたんですね。
すると、本当にその日前後に本が出版されて。新宿の紀伊國屋書店で、自分の本が積んである目の前の光景に「本当に実現した!」と感動したのを覚えています。

キャリア形成と意思決定に関する知見

私の経験談ではありますが、今までのキャリアを振り返ると、「やりたいこと」から生まれるキャリアは成功せず、「できること」を土台にしたキャリア選択は成功しやすいように思います。
ウーマンオブザイヤー受賞者の意味マップ分析でも、キャリアの出発点は「スキルの獲得」でした。外資企業で商品開発をマスターした人が、日本から優れた商品を開発したいと思い、日本の企業に転職し大ヒット商品を発売した例がありました。これはまずは世界標準のスキルをマスターしたから「それをどう使おうか」という「やりたいこと」が生まれたわけですね。
自分がまず「売れるもの」「買ってくれるもの」を作ることが重要。「やりたいこと」がないという人は「やれること」がないのかも。


「人は自分の何を買ってくれるのか」を考える、もしなければ「売れるもの」「買ってくれるもの」を作ることが重要です。
スキルを獲得することで、「できること」を増やしていくと次に、そのスキルを使った「やりたいこと」が生まれるはず。
キャリアの成功者は、「できること」→「やりたいこと(役割知覚の変化)」という順番でキャリアを歩むことが多く、キャリアを成功させるコツだと思っています。


「やりたいこと」にこだわり転職を繰り返し、何のスキルも身につかないのが一番よくない。「やりたいこと」を考えるより「できること」を増やしていってほしい。


現代社会は変化が激しくなってきているではありますが、「できること」に重きを置いてキャリアを形成していくことが大切になることは変わらないように思います。


キャリアを選択する際は、「やりたいこと」ではなく「できること」を土台にして考えると成功しやすいように思います。
英語をマスターすると「通訳がしたい」といった「やりたいこと」が生まれてくるように、スキルを獲得したことで自分が考える自分の役割が変わるのです。これを「役割知覚の変化」といいます。この順番でキャリアを歩むことが成功のコツだと思っています。

転職者・キャリア形成中の方へのアドバイス

キャリア成功の鍵は、いかに自己志向から他者志向になれるか。つまり「やりたいこと」は自己志向で「できること」は他者志向ということです。前職で得たスキルや知識を、他のことに役立てたいと思い転職するなら成功しやすい。他者志向だからです。
単なる憧れの「やりたいこと」(第一段階)から、「できること」に基づく「やりたいこと」(第二段階)になったのであれば成功しやすい。


長期的なキャリア構築という視点でいうと、「できること」に基づく「やりたいこと」が第二段階で、「自分の夢(やりたいこと)=社会の夢(社会のやってほしいこと)」という関係が成り立っているのが第三段階、最上位の次元です。
アドラーも「共同体意識」がキャリアの最終目標と言っていますが、こうなるとみんなが応援してくれるので成功しやすい。他者志向度が上がり実現確率がグッと上がります。


たとえば、キリンフリーの開発者は悲惨な運転事故をきっかけに「飲んでも運転できる」ビールを作りたいと思って開発したそうです。これは社会の「やってほしいこと」と開発者の「やりたいこと」がイコールになっていますよね。


自身に合った仕事や職場を見つけるためには、「自分にしかできないこと」を探すのも一つです。
「できること」に基づく仕事選びは、「自分にしかできないこと」につながりやすい。


迷ったときは、結局自分は何をしたいのか「心の声」を聞くことが大事です。これは、欧米では、精神性と言われる概念なのですが。
それに加えて、「行動してみること」や「ワクワクする未来」を考えて書き出してみることもおすすめです。


自己志向の「やりたいこと」ではなく、「できること」を土台にした「やりたいこと」を見つけることがキャリア成功の鍵となります。他者志向度があがるほど、応援してくれる人が増え、実現率が上がりやすくなります。
「できること」を増やしていき、他者志向を意識しながら「あなたにしかできないこと」を見つけてください。
「これから年をとっていくので、今が一番若いあなただ」という漫画のセリフがあるそうです。何かを始めるのに「もう遅い」と諦める必要はないと思いますよ。


山陽学園大学・山陽学園短期大学の基本情報
名称 | 山陽学園大学・山陽学園短期大学 |
---|---|
所在地 | 〒703-8501岡山県岡山市中区平井1丁目14-1 |
大学HP | https://www.sguc.ac.jp/ |
今回インタビューにご協力いただいた先生 | 山陽学園大学・山陽学園短期大学 神戸先生(教授) |