本来「学歴」というのは、高校卒なのか専門卒なのか大学卒なのかといった区分を表す言葉なのですが、日本の就活においては「学歴フィルター」という「大学の偏差値による採用基準のランク分け」の意味で使われることが多いです。
「満席だった説明会が大学名を変更したら入れるようになった」「特定の大学にのみ別ルートの選考が用意されている」など、過去にはさまざまな事例がありました。こういった話を聞いてしまうと、やはり就活を進めていく上で不安になってしまいますよね。
そこで今回はIT企業における学歴フィルターの実態やエンジニアと学歴の関係について整理していきます。
ITエンジニア採用では基本的に「学歴」よりも「スキルレベル」が重視される
結論から申し上げると、ITエンジニア職を目指す上では基本的に「学歴よりもスキルレベル」の方が重要です。総合職の就職活動と違い、ITエンジニア職は学歴をあまり気にする必要が無いどころか、逆に自身の努力や実力で評価されるチャンスになるといえるでしょう。
当サイトでは、ITエンジニアのプログラミングスキルを以下の通り区分けしていますので、まずは確認してみてください。
S0:未経験
S1:授業で習った、本を一冊クリアしたなど
S2:簡単な制作物を完成まで作ったことがあり、GitHub等でソースを見せられる
S3:応用的な機能も自ら学び実装できる、TECH-BASE等2~3ヵ月程度のプログラミングスクールで学習を積んだ等
S4:研究室で常用、自作アプリ経験以上、特定の言語は参考書無しでも一定使いこなせる
それぞれ企業ごとに求めるスキルレベルは異なりますが、自分がどの程度のスキルを保持しているかの参考になるかと思います。
特殊なエンジニア職では大学名を採用基準にする可能性がある
エンジニア職と一言で言っても、実際に行う業務内容は様々な種類があります。新卒(かつ未経験入社可能)で募集をかけているエンジニアの仕事のほとんどは特殊なスキルを必要としないものが多いのですが、一部の領域においては必ずしもそうとは言い切れません。
例えば現在流行している機械学習・AI分野。ここでは数列をはじめとする高等数学の基礎が理解できていなければ開発に携わることは難しいです。もちろん自己学習で数学的な知識を習得することは可能ですが、業務をスタートさせる段階である程度のエンジニアとしての素養がなければ採用が難しいというケースもあります。こういった場合「しっかりと自己学習を進めることができるのか」「現時点で相応の知識があるのか」という判断材料の一つに大学名が使われる可能性はあります。
なぜ大学名なのかというと、新卒入社の場合は実務スキルについて判断できる項目が少なく、これからの伸びしろやコツコツ努力できるのか等の要素を判断するために大学名が有効だと考えられているからです。また、一般的には本来の語義としての学歴、つまり高校卒、専門卒、大学卒等で区分することが多いですし、募集要項に「理系で該当する専攻の知見を有するもの」などと書いて、学部での専攻内容による応募制限をかけている場合もあります。
エンジニア職の中だと、上記の機械学習分野の他にインフラエンジニアの内セキュリティ関連などリスクの高い実務を担う人の一部、あるいは開発の上流工程でプロジェクトを取りしきる役割を担う元請けの大手企業などでこの可能性が高いといえます。
もちろんこれは企業に直接問い合わせても決して確認できる事項ではありません。直接問い合わせを受ければ「そのような(大学名を元にした)判断は行っておりません」か「採用基準に関しては採用ホームページに記載されている以上のことはお答えしかねます」としか答えようがないからです。
しかし、これはあくまで一部の特殊なスキルを求められるエンジニア職に限った話です。
文系未経験の方も、フロントエンジニア・ITコンサルタント等を志す場合は前述のとおり、学歴はほとんど気にしなくて良いでしょう。きちんと学習意欲が見えるような行動(プログラミング研修を受けるなど)をとりつつどんどん選考を受けていきましょう。
ハード系エンジニアはIT(WEB系)よりも「最終学歴」が給与・出世に影響するケースもある
また、上記は新卒の就職活動という入り口の部分でどういった影響があるかという話でしたが、入社後の給与に関しては一部影響するケースもあります。ただし、これから紹介する話の中での「学歴」は大学名ではなく卒業学校の区分という本来の語義の話がメインになります。
エンジニアの学歴と給与・出世に関しての調査データによると、
IT(WEB系)エンジニアよりもハード系のエンジニアの方が学歴の影響を感じているようです。理系の方が給与が高いという意見が多数を占めることからも、やはり専門性の強いはたらき方ほど給与が上がる傾向にあるということでしょう。
エンジニアの給与・出世に関しては、実力・成果主義を挙げる人や、会社に入ってからの「努力」と答える人が多い一方で、「実際に学歴で昇進や給与に差が出ている」「出身学校で学閥がある」という声も無視できないですね。ただしこれはあくまで一部大手企業の話であると推測できます。大手企業では、給与テーブルの面では高卒と大卒に大きな差が生まれているのが実際です。特に高専卒の人に関しては大卒よりも技術的に高度である可能性も高いのですが、年収帯はそれほど高くなっていないという事情があります。
文系と理系の差については「ある」「ない」両方の意見があるようです。これはひとえにエンジニア職に求められる資質としてスキルのみだけではなく、円滑なコミュニケーションをとる技能などもエンジニアの新卒採用では重視されているからです。なりたいエンジニア像によって活かせる長所は異なってきますので、志望する企業での働き方と自身の特性をしっかりとマッチングさせることが重要になります。
IT企業における「学歴フィルター」の実態は、世の中のイメージとは違う
実は世の中で賛否両論されている「学歴フィルター」のイメージと、IT企業が選考で行っている実際とは大きな開きがあります。
IT企業での選考においても、共通している3つのポイントからその誤解を解き、正しく理解していきましょう。
1.IT企業における「学歴フィルター」に切り捨ての意図はほぼ無い
一般的な学歴フィルターに対する理解は「だいたいこの大学よりも偏差値が低そうな大学・知名度の低い大学はESを読まずにプロフィールだけで落選させる、あるいは説明会に呼ばない」といったものですが、実はこういった運用をしている企業は本当にごく少数です。
ほとんどの企業は採用計画を立てる際に「ターゲット校」という発想をもとに計画を立案します。想定する採用したい人物像(能力・資質など)や過去の入社実績、現社員の中でパフォーマンスの高い人などを総合し、「〇〇大学から重点的に採用していきたい」と目標設定するのがターゲット校という考え方です。これは企業によって特定の大学名・学部名があがることもありますし、ざっくりMARCHクラス、〇〇大学と同じような偏差値帯、というくくりで見ることもあります。
ターゲット校に選定された大学群には、例えばOBがリクルーターとして出向く、学内の企業説明会に赴く、別途広報を行うなどの施策が打たれることもあります。もちろんあくまで「ターゲット」なので、前提に採用したい人物像があります。この人物像を満たしていれば採用を行うという企業も多いのです。
実際に、中規模の企業であればともかく、人気企業ランキング上位にランクインするような企業であれば毎年の応募は何千、何万という単位になります。これだけ膨大な数の求人応募があるという会社の場合には、採用の実務上全ての履歴書・応募書類に目を通すことが難しくなってしまいます。
そうすると採用業務の効率化のために、ある程度は学歴でふるいにかけるということも想定できますし、企業側の発想として自然なものです。これは日本の新卒採用が特別なスキル面を重視しないポテンシャル採用であるからこその考え方ですね。コンピテンシー(再現性)という表現を使うのですが、「この学生は学生時代にこういう努力、こういう困難の乗り越え方をしてきた。だとすれば仕事でもこういう力を発揮してくれるはずだ」という期待のもと、新卒採用は行われています。入学時に偏差値の高い大学に入学しているという事実が、その時点で目標に向けた努力を一定量継続できる、論理的思考力等に問題が無い、という証明になっているという考え方です。
たとえ人物重視の採用方針であったとしても、一人で対応できる採用面接の回数も書類審査の頻度も限度がありますから、特に大企業のように応募数の多い企業であるほど、採用の土俵にのるためには学歴が必要になる可能性は高いといえます。とはいえ、〇〇大学ではないから一切採用しません、という方針を取っている企業はIT業界に限らず、ほとんどありません。決して皆さんを切り捨てる意図はないのです。
2.IT企業におけるエンジニア採用は「学習意欲」か「スキル」があれば学歴不問
学歴フィルターの問題では上述の通り、学生のポテンシャルを判断する一つの要素として大学名が仮に用いられているのであって、求める人物像に明確なスキルセットが存在する場合、それを満たしていれば大学名は関係ないという判断もできるということです。
特にこの傾向が強いのが理系専門職の採用です。もちろん有名大学ほど日経225銘柄など名だたる企業への就職数が多いのは事実ですが、理系単科の大学(特に工業系)からも超大手企業への就職が決まっているケースは珍しくありません。これは専門職採用においてポテンシャルは勿論、実際の業務適性の方が判断に必要な材料だと捉えられているからにほかなりません。
もちろんこうなってくると実際の研究成果等が判断材料になるのでよりシビアだという見方もできます。一般的に理系採用においては、研究職・開発職といった職種は学部卒よりも院卒の方が優位なのは事実ですし、だからといって院卒は絶対に専門職につけるかというとそんなことはありません。そしてあくまで「入社も可能である」というだけで、やはり大手企業を中心にある程度の選別は行われます。例えば建設業界の大手ゼネコンでは、幅広い大学から採用をしているものの、設計職などは先んじて高学歴層に接触し選考を行うことは良く知られています。それ以外の大学は施工管理職などより現場に近い部門での採用が多くなります。
この専門職採用とポテンシャル採用の中間に位置しているのがSE、エンジニア採用です。エンジニアは文系理系問わず採用する会社も多く、そもそも数か月の研修を経て現場に向かう場合が多いため新卒採用らしくポテンシャルを重視します。一方で、実際の現場に入ってからは完全に技術力勝負になるため、継続してスキルを習得できるような「学習意欲」か既に現場で活用できる「スキル」のどちらかがあれば採用に繋がりやすいのです。学歴が必要かどうかの判断は企業によって異なりますが、概ねIT系企業は学歴不問であるケースが多いというのが近年の新卒就活市場におけるトレンドです。
一部超大手を除けば、IT企業を志す場合に学歴フィルターの事を考えるのは時間の無駄だとも言えるでしょう。実際に選考の過程でもコミュニケーションを取りながらお互いを理解していくような採用手法が多く取り入れられています。
3.ITエンジニアの筆記試験がある=「学歴フィルター」がないと言える
学歴フィルターは大手企業など就活生に人気の高い企業で適用される場合が多いのですが、「あの企業の選考に落ちた!学歴フィルターだ!」と言われている企業に限って実は大学名での振り落としを行っていないというケースも多々あります。実は単純に初期選考で課されるSPIや玉手箱等の筆記試験の点数が基準に満たないだけということも多いのです。
(参考)IT企業のSE選考では対策必須!SEの適性検査「CAB」「玉手箱」の出題傾向と対策方法を知ろう!
就活で適性検査を実施する企業では性格診断と共に国語や数学の問題が出題され、その結果が次の選考へ進むための基準になっていることがあります。これは業務上最低限必要な論理的思考力や読解力を確認するためでもあり、与えられた課題をきちんとこなすことができるのかという部分の判断材料にしている企業もあります。というのも、適性検査はどんな種類であっても基本的には高校受験まで、つまり義務教育の範囲で回答可能な問題レベルに調整されており、対策を繰り返すことで理解できる前提の調整がなされています。
毎年様々な就職情報会社がSPIをはじめとする採用テストの模擬試験を行っていますが、とある会社の受験データでは、受験者のうち最も平均点が高い属性は国公立大学生、次いで有名私立大生、という傾向が毎年ほぼ変わらないそうです。筆記試験は基本的に受験者が増えるごとに企業側のコストが増えていくため、受験をさせてその結果を活用しない(つまり大学名のみで判断する)ということはまず考えられません。
筆記試験は初期選考の一環としてエントリーシート提出と共に実施されるケースも多いため、単純に点数が低かった自身の努力不足を大学名に責任転嫁してしまっているという事例が実は後を絶たないのです。人気企業であればそれだけ受験する母集団のレベルもあがり、要求される合格ラインも高くなりますので、筆記試験対策の重要性がわかります。
【補足】資格も学歴も就職後は関係ないものだと思っておこう
中堅~大手のSES企業において、入社後に情報関連の資格取得が必須となっているケースがあります。基本(応用)情報技術者試験などが該当しやすいですね。就活中にこれらの資格を持っていること、または学習していることをアピール材料にしたいという相談を受けることがありますが、結論としては何とも言えません。少なくとも劇的に有利にはたらくことはないです。
エンジニア職(特に技術的なエキスパートを目指す場合)は成果物があってこその世界です。もちろん入社後に取得することを見据えて既に取得しておきました、というのも一つの意欲をアピールする方法ではあるのですが、その資格をもっているから業務を高いレベルでこなせるかどうか、というのはまた別の話です。これは大学名による学歴フィルターの不確かな情報に一喜一憂しがちな学生にも言える話で、学歴というのはあくまでその時点でのポテンシャルを仮に表明するものでしかありません。
当たり前の話ですが、偏差値の高い大学を出ている事、その分野の知識に長けている事と実際の業務がうまくできるかどうかは全く別種の話だという意識を持ってください。仕事の中で成果をあげるためにはコミュニケーション能力など、必要とされる要素が他にもたくさんあります。そういう意味では学歴はあくまで参考値程度だと考えることもできます。
これらの事実から、時たま就活市場でみかける「学歴ロンダリング(※)」という手法はIT企業への就職においてあまり適していないことがわかります。
※大学院入試は大学入試よりも学校ごとの難易度差が小さくなることを利用して出身大学よりも偏差値の高い大学院に入学し、最終学歴の大学名を変更することの通称。就活市場でのアドバンテージを狙って実施されやすいが、院生の場合学校名よりも研究の成果物を重視されるため、実際の効果のほどは大きくないとも言われている
改めて時間とお金をかけて学校(専門・スクール含む)に通うよりは、自学自習で実際にプログラミングを行い、ソースコードを公開したりポートフォリオを用意したりする方が採用担当者に興味を持ってもらえるチャンスがあるといえるでしょう。
学歴に不安を感じている人こそIT企業への就職はチャンスになる
結論としてはIT企業、およびエンジニア職の採用において学歴フィルターはあまり存在せず、むしろ多くの人に門戸が開かれています。現在所属する大学に通う理由は人それぞれだと思いますが、不安を抱いている人ほど、この学歴フィルターの仕組みについて正しい理解が必要になります。また、こういった人ほどエンジニア職を目指すことのメリットは大きいといえるでしょう。
就活はあくまでゴールではなく、通過点です。しっかりとその先のキャリアを見据えて納得のいく一社目を選んでいきましょう。
SEを目指すならエージェントと話をしよう
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