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なぜ「SIerはやめとけ」という声がこれほど多いのか
就職活動でIT業界を調べると、必ずと言っていいほど目にする「SIerはやめとけ」という言葉。これからエンジニアとしての第一歩を踏み出そうとする学生にとって、これほど不安になる言葉はありません。しかし、この言葉の裏には業界の構造的な問題と、一方でそれを理解して「勝ち組」のキャリアを歩んでいるエンジニアの存在があります。本記事では、最新の労働統計や現場の一次情報から、SIer業界のやばい実態と、後悔しない企業選びのポイントを解説します。
「SIerはやめとけ」って実際どこまで本当?
SIerの実態は本当にブラック?「ITゼネコン」と呼ばれる多重下請けの闇
就活生の皆さんが目にするネガティブな噂の多くは、業界特有の「多重下請け構造」から生まれています。
IT業界の構造は、建設業界におけるゼネコンと同じようなものと考えると理解しやすいです。建設業でいえば、大手ゼネコンが工事を元請けし、実際の作業は下請け・孫請けの企業が担当します。IT業界も同様で、ピラミッドの頂点に立つ1次請け(プライム)から、2次、3次へと下るに従い、中間の利益が差し引かれていきます。その結果、ピラミッドの下層ほど利益率が低下し、労働条件が過酷になるという実態が現れやすくなります。
新卒時にどの階層の企業を選択するかで、20代のうちに得られる経験と年収には決定的な差が生じます。厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」でも、従業員規模が大きいほどシステムエンジニアの平均年収が高くなる傾向が確認されており、この構造的な格差が賃金統計にも表れています。
「商流の上位」に入れる企業を自分で探せますか?
SIer業界がやばい・つまらないと感じてしまう5つの構造的理由
業界全体がやばいと一括りにされる背景には、主に以下の5つの要因が存在します。これらは個人の努力では変えがたい構造的な問題です。
1.深刻化するDX人材の不足
IT業界において、人材不足が慢性的になっています。IPAが2024年に実施した「DX動向2024」調査では、DXを推進する人材不足が一層深刻化していることが示されています。DX人材の量が「大幅に不足している」と回答した企業は、2021年度の30.6%から2023年度には62.1%まで増加し、6割以上の企業がDX人材を十分に確保できていない状況です。
人材不足に伴い、SIer1人に振られる業務量は増加傾向にあります。度が過ぎるとうつ病などにかかりプロジェクト中に人が抜けることもあり、その結果スケジュールが狂ってさらに忙しくなるという悪循環に陥ります。
出典:IPA「DX動向2024 ― 深刻化するDXを推進する人材不足と課題」
2.ウォーターフォール開発における「納期」の重圧
SIerの現場では「ウォーターフォール開発」という手法が主流です。家づくりに例えると、まず設計図(要件定義・基本設計)を完成させてから建設(開発)に進み、一度基礎を固めたら後戻りできない進め方です。
この方式では、工程の終盤で発生した遅延がすべて納品直前にしわ寄せされます。月末の納期が多いため特に月末は仕事が忙しくなり、スムーズにシステム開発が進む場合はあまりなく、仕様ミスやバグなどによって遅れるケースがほとんどです。納期を遅らせるとクライアントに多大な迷惑がかかるため、残業で間に合わせるという構造が残業を常態化させています。
3.仕様変更の繰り返しによる現場の疲弊
SIerのクライアントは、ITについて知識量が少ない場合が多く、システム開発の工数感覚をあまり理解していないことがあります。また、ビジネス環境が変わったことで必要な機能が変化することもあります。そのため機能の追加や仕様変更の依頼が頻繁に発生し、余計な作業が増えて忙しくなります。
それでも納期は変わらないことがほとんどであり、激務になる原因のひとつです。
4.「管理業務」に偏る業務内容のギャップ
プログラミングを期待して入社した新卒が、実際にはExcelでの進捗管理や顧客との調整業務ばかりを任されるというギャップは、SIerが「つまらない」と評価される大きな理由のひとつです。
SIerの場合、SEとコーダーの違いは基本的になく、仕様書の作成、テストケースの作成、顧客先訪問での交渉やレビューなど、オールラウンドなスキルが求められます。また、業界における上位職(チームリーダー、PM、プロジェクトリーダー)になるほど、実際の開発よりも人員・予算の確保や進捗管理といったマネジメント業務が中心になっていきます。
5.客先常駐に伴うマネジメントの形骸化
SIerの場合、チームメンバーを組みプロジェクトとして派遣先に常駐することが多くなりますが、チームメンバーに対しても派遣先企業に対しても、マネジメントが不十分であるケースが蔓延しています。
自社の管理が届かない場所で、エンジニア個人が責任を背負わされるリスクも伴います。また、参画がチーム単位ではなく一人だけの場合、近くに悩みを相談できる人がいないため、仕事に遅れが出たり追い込まれて離職してしまう場合が多いのが実情です。
【特別コラム】現場のリアル:新卒が目の当たりにした「理不尽」の正体
どんなに技術を磨いても、入る会社や配属されるプロジェクトを一歩間違えると、正当な評価が受けられなくなる——これはSIerの現場では決して珍しくない話です。以下は、ある新卒エンジニアが実際に経験した現場の出来事です。
新卒でSIer企業に入社したAさんは、OJT研修を派遣先の30代のリーダー(以下Sリーダー)のもとで受けていました。Sリーダーは派遣先でエースとしてのスキルが十分にあり、人柄も良好で、Aさんはとても尊敬していました。
ある時、1つの案件をリリースする直前にソースコードのコンパイル(プログラムを動作できる形式に変換するチェック作業)が1件漏れていたことが見つかりました。すぐに派遣先の若手社員A氏から電話があり、怒鳴り声で「本当に別の資源は問題ないのか、テストを担保するために今すぐやり直せ」という指示を受けました。顔を伏せ、涙をじっと我慢しているSリーダーの表情が未だに忘れられないとAさんは語ります。その後、指示通りテストを徹夜で行い、一切睡眠を取ることなく翌日クライアントの会社にそのまま謝りに行きました。
【この悲劇が起きた構造的な背景】
クライアント先の社員の一言が、社員の人事評価にとても大きな影響を与えてしまう——これがSIerの多重下請け構造の恐ろしさです。いくら優秀でも、どの企業・プロジェクトに配属されるかという「環境」が、若手エンジニアのキャリアを大きく左右します。新卒カードをどの企業で使うかは、それほど重要な選択なのです。
「良い現場」は、実際に体験してみないとわからない。
新卒でブラックSIerを回避し、エンジニアとして生き残るための戦略
やめとけという言葉を鵜呑みにして可能性を捨てるのではなく、構造を理解した上で能動的にキャリアを築くための戦略を紹介します。
徹底して「1次請け(プライム)」を射程に入れる
待遇が安定し、スキル形成がしやすい商流トップの企業を目指すことが重要です。プライム企業は選考難易度が高い場合もありますが、中堅SIerであっても「プライム案件メインの案件構成か」を面接で確認することで、商流の高いプロジェクトに入れる可能性を高められます。募集要項や企業サイトで「元請け」「直請け」「プライム」といった表記があるかを事前にチェックしておきましょう。
「ポータブルスキル」を獲得できる環境かを見極める
会社独自のルールやツールではなく、どこでも通用する設計能力やマネジメント能力を磨ける環境を自ら選ぶことが、長期的なキャリア形成につながります。入社後に「この経験は別の会社でも使えるか?」という視点を持ち続けることが重要です。
会社がエンジニアを守る「体制」を確認する
現場でトラブルが発生した際に、会社が矢面に立ってくれるかどうかは、公式サイトだけではわかりません。就活の口コミサイトや、内情を知る就活支援のプロに相談することで、実態に近い情報を得ることができます。
現場で通用する「本物」のスキルを武器に。差をつけるなら今
就活生が見るべき「ホワイトSIer」5つのチェックリスト
説明会や公式サイトで、自分の目で確認すべき客観的な指標をまとめました。「なぜそこを確認するのか」という理由とセットで理解しておきましょう。
有価証券報告書の「従業員の状況」欄には平均勤続年数と平均年収が記載されています。業界平均と比較することで、社員が長く働き続けられる環境かどうかを客観的に判断できます。離職率が高い企業は、それだけ現場の負担が大きい可能性があります。
取引実績や採用ページを見て、自社が主導権を持ってプロジェクトを動かしているかを判断しましょう。面接で「案件の商流はどの位置ですか?」と直接確認するのも有効です。下請け構造が深いほど、納期や仕様変更のしわ寄せを受けやすくなります。
福利厚生ページの表面的な記述ではなく、一人あたりの年間研修予算や資格取得手当の具体的な金額を確認しましょう。金額が明示されている企業は、育成に本気で取り組んでいる証拠です。
SESや客先常駐がある企業の場合、一人で常駐先に送り込まれる「1人常駐」が禁止されているか確認しましょう。チーム単位での配属や、自社の上司による定期的な面談制度があるかどうかが重要な指標です。
クチコミサイトでは、実際に働いた人の声を確認できます。「残業時間」「仕事の裁量」「評価制度」に関する投稿を確認することで、公式サイトでは見えてこない現場の実態を把握する手がかりになります。
まとめ:SIerを「やばい業界」にするか「最高のキャリア」にするかはあなた次第
SIerは社会を支える大規模なシステムに携われる唯一無二の場所です。ネット上のブラック・やばい・やめとけという言葉を正しく解釈し、業界の構造を理解した上で、自身の市場価値を最大化できる環境を選び抜いてください。
本記事で紹介したチェックリストを活用しながら、プロの知見を賢く借りることが、エンジニア人生を成功させる最初の一歩になります。


